に、どすんどすんと空砲をはなって、猛練習であるが、その凄《すさまじ》い砲声を原稿に托《たく》して送れないのが甚だ残念だ。これより余は艦長にインタビューすることになっているので、ロイヤル・オーク号乗艦第一報をこれにて終る。
(×月×日、スカパフロー発)
余は今、純毛《じゅんもう》純綿《じゅんめん》のベッドに横《よこた》わりながら、昨日に引続き、スカパフロー発の第二報の原稿を書いているところである。寝ていては、報告が書きにくいので、起きようかと思うが、すぐサラ・ベルナールのような顔した看護婦が来て、上から押さえるので、やりきれない。もっとも余は、すっかり風邪《かぜ》をひいて、かくの如く純毛純綿の中にくるまって宝石のような暮しをして居れど、頭はビンビン、涙と洟《はな》とが一緒に出るし、悪寒《おかん》発熱《はつねつ》でガタガタふるえている始末《しまつ》、お察《さっ》しあれ――といったのでは、よく分らないかもしれないが、早くいえば、余は只今、ロイヤル・オーク号上に居るのではなく、スカパフロー軍港附属の地下病院の一室に横わっているのである。
余は、乗艦後二十四時間もたたないのに、こんな病院に横わろうとは、夢にも思わなかった。これは決して、余が小胆《しょうたん》のあまり自ら進んでロイヤル・オーク号から降りたわけではなく、只今では、生きている人間は、全部|該艦《がいかん》から締め出しを食っているのだから誤解のないように。だから、余も亦《また》こうして生きている限り、あの艦には乗れないのである。余は、無理やりに退艦《たいかん》させられしまった。しかも一時間十五分というものを、夜の北海《ほっかい》の、あの冷い潮《しお》に浸《ひた》っていたのであるから、まことに御念の入ったことであった――という訳は、わがロイヤル・オーク号は、昨夜、スカパフロー港の底に沈んで了《しま》ったのである。
余は、なんにも覚えていない。あのとき夜の甲板《かんぱん》へ、新鮮なる空気を吸いに出たことまでは覚えているが、あとは知らない。そうそう、大爆発があったことは知っている。とたんに、艦《ふね》は大震動《だいしんどう》したっけ。甲板を走っていく水兵が、「独軍の飛行機の空襲だ。爆弾が命中したぞ」と叫んでいたことを、今思い出した。しかしプロペラの音は全然しなかったのである。仍《よ》って案ずるに、独軍では、無音《むお
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