に、ひそかに名まえを用意しておいた。“超人間X号”というのがその名まえだ。超人間だから、君たちがいく人かかっていっても、あべこべにやっつけられる。だから、手をひいたがいい」
博士は、あの怪物が、どうやら超人間X号であるらしいことをものがたり、そして話したあとで、ぞッと身ぶるいした。
五人の少年たちも、この話を聞いて、急に不安な気持ちになった。
死刑台《しけいだい》の怪影《かいえい》
「先生。その超人間X号というのは、いったい何者かんですか、どうしてそんな怪物が、この世の中にすんでいるのですか」
戸山少年は、谷博士にたずねた。
「じつは、超人間X号をこしらえたのは、わしなんだ。わしが研究所で作りあげた人工の生物なんだ。それは電気臓器《でんきぞうき》を中心にして生きている、半斤《はんぎん》のパンほどの大きさのものなんだ。この電気臓器をつくることについて、わしは長いあいだ研究をかさねた。そして完成したのは、この春のことだった。あらゆる高等生物は、親のからだから生まれてくるが、超人間X号は、わしの手で作ったのだ。ちょうどラジオの受信機を組みたてるようにね。分かるね、わしの話が……」
博士のことばに、少年たちはたがいに顔を見あわせた。分かるようでもあり、あまりふしぎで、よく分かりかねるところもあった。そのことを博士にいうと、博士はうなずき、
「そうであろう。わしの話は、よほどの専門家にも分かりかねるところがあるんだ。だから君たちにも分からないのはむりでない。しかし、わしが生物を人造《じんそう》することに成功したということを、まず信じてくれれば、これで話の要点は分かったことになるんだ」と、博士は熱心に語った。
「さて、わしは、金属材料《きんぞくざいりょう》ではなく、人工細胞《じんこうさいぼう》を使って、電気臓器を作りあげた。これは脳髄《のうずい》だ。その他のあらゆる臓器を一つところに集め、そして人間の臓器よりもずっとよく働くように設計してある。それはうまくできあがった。しかし困ったことに、それは生きてはいたが、まるで気絶《きぜつ》している人間同様に、意識というものがなかった。それでは困る。せっかく作った電臓《てんぞう》が、いつまでも気絶状態をつづけていては役に立たない。そこで、どうしたら、この電臓の意識を呼びさますことができるか、それを考えたのだ。分かるかね、ここらの話が……」
博士は、見えない顔を左右に動かして、少年たちの様子をうかがうのであった。
「ぼんやり分かりますよ」
少年は、正直《しょうじき》に返答した。
「ほう。ぼんやりでも、分かってくれると、わしはうれしい。……そこでわしは、電臓に意識をつけるために電撃《でんげき》をあたえた。三角岳《さんかくだけ》へおしよせてくる大雷雲《だいらいうん》を利用して、あの電臓へ、つよい電気の刺戟《しげき》を加えたんだ。これが成功するか失敗するか、どっちとも分かっていなかった。しかしわしは、大胆《だいたん》にその実験をやってのけたのだ」
博士のことばは、だんだん熱して来た。
「ところが、意外にも、研究所の中に大爆発《だいばくはつ》が起こった。ひどい爆発だった。まったく予期《よき》しない爆発だ。わしは一大閃光《いちだいせんこう》のために、いきなり目をやられた。わしの脳は、千万本の針をつっこまれたように、きりきりきりと痛んだ。ああ……ううーむ」
ここまで語って来た博士は、いきなりその場にもだえて、椅子から下へころがり落ちた。
さあ、たいへんである。少年たちは、博士を助けおこす組と、医局へ走る組とに分かれて一生けんめいにやった。
大宮山院長がかけつけて、博士を担架《たんか》でしずかに病室へ移すよう命じた。そして当分のうち絶対《ぜったい》に面会謝絶《めんかいしゃぜつ》を申しわたした。
少年たちは、だからもうそれ以上博士から奇怪《きかい》な超人間X号の話を聞くことができなかった。そして割りきれない胸をいだいて、病院を引きあげたのであった。
いよいよ怪《あや》しいかぎりの超人間X号は、今いずこにひそんでいるのだろうか。ダム爆破《ばくは》以来、ここに十三日になるが、彼の所在《しょざい》はさっぱり知られていないのだった。
ところが、その日の夜、三角岳の南方四十キロばかりの地点にある九鬼刑務所《くきけいむしょ》で、死刑執行中《しけいしっこうちゅう》に、怪しい影がさしたという事件があった。
死刑は絞首台《こうしゅだい》を使うことになっていた。
死刑囚は、毒殺《どくさつ》で八人を殺したという罪状《ざいじょう》を持つ火辻軍平《ひつじぐんぺい》という三十歳の男であった。
この死刑に立ちあった者は、三人であった、一人は執行官、もう一人はその下でじっさいの仕事、つまり死刑囚の首に綱
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