熊さえ棲息していることを許されなかったからだ。大死滅だ。生物は、自然の猛威の前に、すっかりひれ伏してしまったのだ。
生物の絶滅!
もしも地球の外部から、この惨澹たる氷河期に見舞われた、地球の有様を見ていた者があったとしたら、彼は、地球のうえの、人類をはじめあらゆる生物は死滅し終ったと思ったであろう。
だが、事実は、いささか、それとは喰い違っている。大氷河の下に、奇蹟的に生存している人類の集団があったのだ。一部はアメリカに、そして他の一部は日本に!
いずれも、地上から測って、探さ数百メートルの地底に奇蹟的に生きている日本人たちであった。
アメリカの避難坑は、氷河狂といわれた北見博士によって護られ、日本の避難坑は、志々度博士を最高指導者として護られていた。
北見博士の予想はみごとに適中して、ついに第五氷河期は来たのであった。火山からのおびただしい噴出物は、高空に沈滞し太陽熱をすっかり遮断してしまったのである。そしてこの恐るべき第五氷河期がついに来たのであった。
博士は、別に誇らしげにも見えない。いや博士の面上には、以前にもまして沈痛の色がただよっている。
(ここまでは氷河期と闘ってきたが、これから氷河の融け去るまでの何十年何百年間を、はたしてわれわれは持ちこたえることができるだろうか。まだまだ自分の準備は非常に足りなかったのではないか)
博士は、誰にもいえない悩みを胸に抱いて、ひとりで闘っているのだった。
底本:「十八時の音楽浴」早川文庫、早川書房
1976(昭和51)年1月15日発行
1990(平成2)年4月30日2刷
入力:大野晋
校正:鈴木伸吾
2000年3月29日公開
2006年7月19日修正
青空文庫作成ファイル:
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