なった。連日、ひどい吹雪がつづいた。見る見るうちに、雪はうず高く積っていった。道路も人家の屋根も、雪の下に埋没してしまった。
それでも、人々はまだ、それほど事態を重大視してはいなかった。その証拠に、まったく雪に埋もれてしまった大東京の上を、スキーヤーたちが、これこそ天の恵みとばかりに、滑りまわったのだ。
雪は、ますます降った。太陽は、どこかへいってしまった。食糧難がやってきた。燃料は、あと一カ月をかろうじて支えるほどに少くなった。
十一月から十二月となった。雪は融けなかった。ようやく冬に入ったばかりであるのに、大東京の積雪は五メートルに達した。諸所で、家屋が倒壊した。雪の重味が、いよいよ屋根のうえから加わったのであった。人々は争って、鉄筋コンクリート建の小学校やビルの中へ殺到した。
食糧と燃料の不足が、いちだんと激しくなった。それまでは、辛うじて送電をつづけていた発電所も、ついに休電のほかなくなった。水力電気は、もうとっくの昔から停まっているが、今まで送電をつづけてきた火力電気も、いよいよ貯蔵の石炭がつきてしまったのであった。全市はついに暗黒と化した。
こういう状況は、ひとり日本だけのことではなかった。世界的の異常現象だった。日本などは、まだ温い方であった。
ニューヨークでも、ロンドンでも、高さ数十階を誇る高層ビルが、雪害のために、頻々として、灰の塊のように崩れだした。雪害というよりも、氷害といった方がいい。高さ数十メートルに達する積雪は、その重さのために、下層の雪は、固い氷と化した。そして、だんだんと大きな塊となっていったのである。
氷だ。氷の塊だ。その氷塊が、しずかに動きだした。氷塊も、やっぱり高いところから低い方へ動いていくのだ。
もうそのころは、誰が見ても、地球の上に氷河期がやって来たことに気がついた。
氷河だ。大氷河だ。
氷河は、目に見えないように動いた。そして、地上からとび出したあらゆる建築物を押し倒しこれを粉砕していった。
建築物だけではない。丘陵も、氷河のために削られていった。丘陵だけではない。大きな山嶽が、下の方をだんだんに削り取られ、やがて一大音響とともに、氷河の上に崩れかかるというものすごい光景さえ、随所に演じられた。
だが、誰も、それを見た者はなかった。高さ数百メートルの氷河の下なる地上には、もはや一人の人間、一頭の白
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