ろが、われわれは、それほどの気温降下を感じていないのです。これは噴火等などのため地殻の温度が上がり、従ってそれほど気温降下のあるのを感じていないのであります。気温はかなり下っています。しかも平均七度というのは、世界全体を通じての観測結果なのですから、たとえば、日本だけとか、支那大陸だけとかいうのではなく、世界の平均気温が寒冷になっているというのですから、これはちょっと注意すべきことではないかと思うのです」
「しかし志々度君。その気温が七度下っているというのは、一時的現象ではないのかね。つまり太陽の黒点が急に増えたとか、そこへもってきて、噴火の煙で、太陽が遮られて、気温が下るとか……」
「そうです。私は、その噴火の噴出物が空を蔽って、気温が降下しているという説には賛成なんですが、今、青倉先生は、これを目して一時的現象といわれましたが、私は、これが相当長くつづくのではないかと心配する者です。従って、気温は、さらに低下していくのではないか」
「そんなことはないだろう。噴火は局部的だ。そして、噴出物の灰は、今もどんどん落下して、地上に堆積しつつある。だから、今後それほど顕著な気温降下はないと思う。それに地殻の変動によって、大地の温度がうんと上昇しているから、まるで炬燵《こたつ》をかかえているようなもので、地表は春の如しさ。心配はあるまい」
 青倉教授は、楽観説を持している。
 総監は、首をひねって、志々度博士の方を盗み見た。
「私は、青倉先生ほど、これを楽観的には考えられないのです。噴出物は、相当おびただしい量にのぼっています。空中へ舞い上ったものが、なかなか下へ落ちてこないようです。つまり、空中には火山灰の量が日増しにふえてくるように思います。確実な計算はできませんが、この調子でいくと、やがては、全世界の空が、暗曇程度に蔽いつくされるのではないでしょうか。すると太陽の輻射熱は、少くとも五、六十パーセントを失うようになる。悪くすれば、八十パーセント以上を失うかもしれない。それが毎日続いたとすると、これは一大事ではないかと思う。この前、北見老博士の説を、私は一笑に附しましたが、この頃になって、私は、老博士の説が、ある程度事実に近いと思うようになったのです」
「いや、それは、思いすぎだ」
 青倉教授は、あくまで志々度博士の説を否定したのだった。


     老博士の怪行動


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