中するのを見守っている間もなく、
「潜航! 二十メートル」
 艦長は号令しました。一旦魚雷を発射した上からは、どうせ×に気づかれるのは知れていますから、その攻撃をさけるために、すばやく海底へもぐりこんだのです。もう潜望鏡もすっかり水面下に没して、樽のような艦内からは、なんにも見えません。旗艦から発する連絡号令が、水中を伝わって、こっちの聴音機に感じるばかりです。――深度計の針が、気持よく廻り始めました。
 水面下九メートル、十メートル、十一メートル……。
 どどど……。
 鈍い、それでいて艦の壁にビリビリとこたえる異様な大音響がしました。すくなくとも五隻、多ければ十隻の×船の胴中に魚雷が当って爆発したのです。
「うッ、命中だッ」
「やったぞ。万歳」
 射手はその場に躍《おど》りあがりました。
 続いて次から次へと、遠くに又近くに、物凄い響です。海面上の商船隊の狼狽のありさまが手にとるようです。こうなれば、しめたもの、ついでに残る商船を、やっつけてしまわなければなりません。
 各艦は更に第二回の魚雷発射に移りました。
 どど、どど、どどーン。
 が、が、がーン。
 サイレンが海上に鳴りひびく。胆《きも》を潰した護衛の巡洋艦は、サッと数条の探照灯を海面上に放って、ふり動かしました。しかしわが潜水艦は、あまり間近にいるのです。しかも商船隊の真唯中ですから、商船自身が邪魔になって一向先が見えません。きき目のないのは探照灯ばかりではありません。二十六門ずつもある夥《おびただ》しい大砲が一向役に立ちません。
 そこへまた、あちこちで魚雷が命中して、大爆発が起る。重油が燃え出す。積みこんだ火薬に火がついて爆発がさらに一段と激しくなる。そうなると二個師団の×国陸軍の兵士たちは、ポンポン空中高く跳ねとばされる。商船同士衝突する……。
 ×が日本の潜水艦を恐れて、五十隻もの商船隊が無理にお互の距離を縮めていたことは、大変な失敗だったのです。
 いや、もう滅茶苦茶の大勝利です。
 第八潜水艦は、奮戦また奮戦です。清川大尉は、汗と油とで、顔面がベトベトに光っています。乗組員たちは、あまりの奮闘に、腰から上は赤裸になり、その上に水兵帽をのせて、戦っています。
「魚雷撃方やめイ」
 艦長は号令をかけました。
「潜航中止、直《ただち》に浮き上れ」
 ここまでくれば、もう×の大部分はやっつけられた
前へ 次へ
全14ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング