た。ではすぐ艇内をさがす捜索隊の顔ぶれをきめましょう」
「うん、うまくやってくれ」
その後は、声が急に低くなって、聞きとれなかった。
それから十五分ほどすると、捜索隊の顔ぶれがきまったのか、事務長が艇内の方々へ電話をかけはじめた。
秘密のうちに共産党員にたいし、戦いの火蓋が切られたのである。
当のケレンコとリーロフが、知っているかどうか知る由もないが、艇内はにわかに、重苦しい空気につつまれて行った。
太刀川時夫は、座席にふかく体をうずめたまま、じっとこらえていた。
(怪しい奴といえば、あの向こうの隅に睡りこけているケント老夫人と、酔っぱらいのリキーの二人組だが……)
太刀川は、どういうものか、二人組が気になって仕方がなかった。
(しかし待てよ。共産党員のケレンコとリーロフというのは、どっちも男だ。ところがあの二人は、一人は荒くれ男だけれども、もう一人の方はお婆さんではないか。するとこれは、別人かな)
と思ったが、それでもなお、彼はこの二人組から、目を放す気持にはなれなかった。
その時であった。
とつぜん防音扉が、ばたんとあいてどやどやと捜索隊がはいってきた。
(すわこそ!)
と、太刀川時夫は席から立ちあがろうとしたが、いやまてと、はやる心をおさえつけて、そのまま席に体をうずめた。
「ひどい奴だ。さあ、こっちへ来い」
隊長らしい艇員の一人が、声をあららげて、誰かを叱りとばした。
(さあ、始ったぞ。リキーの奴がひきたてられるのか!)
太刀川は、印度人夫妻の肩ごしに、その方に目を光らせたが、リキーは今目をさましたらしく、両腕を高く上にのばして、大あくびをしているところだった。
(あれ、リキーじゃないとすると、一体誰が叱られているんだろう?)
そのとき、隊長らしい艇員が後をふりむきざま、
「さあ、早くこっちへくるんだ」
といって、顔をまっ赤にして、一人の少年の首すじをつかんで、ひきずりだした。見ると、それは色のあせた浅黄《あさぎ》いろのズボンに、上半身はすっ裸という恰好の、中国人少年だった。
「貴様みたいな小僧に、この太平洋をむざむざ密航されてたまるものか。この野郎めが」
艇員は拳をあげて、少年の小さい頭をなぐった。
「ひーい」
少年は、悲鳴をあげた。
「なんだ、密航者か」
「ふとい奴だ」
「いや面白い。これは、いいたいくつしのぎだ」
乗客
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