に突き刺して附近に出没《しゅつぼつ》し、そのたびに、青竜刀《せいりゅうとう》がなくなったり、取っておきの老酒《ラオチュー》の甕《かめ》が姿を消したり、泣《な》き面《つら》に蜂《はち》の苦難つづきであったが、しかもなお彼は抗日精神《こうにちせいしん》に燃え、この広大なる濠洲の土の下に埋没《まいぼつ》している鉱物資源を掘り出し、重工業を旺《さか》んにし、大機械化兵団を再建してもう一度、中国大陸へ引返し、日本軍と戦いを交《まじ》えたい決意だった。それからこっちへ十年、遂にこの砂漠の一劃に、十年計画の重工業地帯が完成したのを機に、密使《みっし》油蹈天《ゆうとうてん》をはるばる上海《シャンハイ》に遣《つかわ》して、金博士の最新発明になる“人造人間戦車”の設計図を胡魔化《ごまか》しに行かせたのであった。
 今や工学士油蹈天は、大任《たいにん》を果《はた》して、めでたくこの砂漠へ帰ってきたのであった。醤の喜びは、察するに余りある次第であった。
「おい、油学士。見れば見るほどすばらしい製図ではないか」
 醤は、どう褒《ほ》めてよいか分らないから、製図の見事なところを褒めることにした。
「はい。それだけに、私の苦心の要《い》ったことと申したら、主席によろしくお察し願いたい」
「それはよろしく察して居る。褒美《ほうび》には、何をとらせようか。カンガルーの燻製はどうだ」
「いや、カンガルーは動物園のような臭《にお》いがしていけません。――いや、それはともかく、想像していた以上に、これは実に立派にひかれた製図でございますが、更にその内容に至っては、正に世界無比の強力兵器だと申してよろしいと存じます」
「それで、わしには鳥渡《ちょっと》分らんところもあるから、お前、この図について、報告せよ。一体、“人造人間戦車”とは、どんなものか」
 とにかく御大将《おんたいしょう》ともあれば、威厳《いげん》をそこなわないことには、秘術を心得て居る。
「はは。そもそも金博士の発明になる人造人間戦車とは……」
 油学士は、前後左右、それに頭の上を見渡し、砂漠の真中の一本のユーカリ樹《じゅ》の下には、主席と彼との二人の外、誰もいないことを確かめた上で、
「……人造人間戦車とは、ソノ……」
「早くいえ。気をもたせるな。褒美は、なんでも望みをかなえさせるぞ」
「はい、ありがとうございます。さて、その人造人間戦車とは
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