。いやとても僕なんかの及ぶところではありません」
 と帆村は真実心からの敬意を表したのであった。
 馬詰丈太郎が伯父を殺したわけは、ウララ夫人に対する邪恋を遂げるばかりではなく、博士の財産も自由にするつもりだったという。彼は事実、株に失敗して、某方面に一万円を越える借金に悩んでいた事が取調べの結果分った事である。
 ウララ夫人は一年のち、東京を去った。どこへ行ったのか、ハッキリ知る人もなかったけれども、丁度《ちょうど》そのころサンタマリア病院の若きマクレオ博士もそこを辞して、帰国の途《と》についたということである。
 問題の人造人間は、事件後某所に監禁せられたまま、それっきり陽の目を見ないという噂であるが、この監禁というのは何処にあるのか、誰も話してくれる者がない。



底本:「海野十三全集 第5巻 浮かぶ飛行島」三一書房
   1989(平成元)年4月15日第1版第1刷発行
初出:「オール読物」文藝春秋
   1936(昭和11)年12月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:花田泰治郎
2005年5月6日作成
青空文庫作成ファイル:
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