を押して開いた。そして私の背中を、うしろからついた。
私は、全く気をのまれてしまった形だった。なぜといって、扉がひらいての瞬間から、私の眼は、室内に軍隊のように整列しているぴかぴかの人造人間のすばらしい群像に吸《す》いつけられてしまったのだ。
なんというりっぱなモール博士の研究であろう!
それとともに、なんという手際のいいドイツ軍の製造技術であろう!
「さあ、あの台のうえにある金属製の檻の中に入って見物しよう」
大講堂を十個ぐらいうち貫《つらぬ》いたようなこの広い試験室の中央には、噴水塔《ふんすいとう》のようなものがあって、上は、金属棒をくみあわせた檻になっていた。そして、その檻の中には、試験官らしいドイツ人が三四人入っていて、机の形をした配電盤の前に立っている。人造人間をうごかすためには、強烈な電波を使うから、電波の侵入をふせぐこのような厳重《げんじゅう》な檻の中に入って試験をしなければならないのであった。
フリッツ大尉と私とは、最後に、檻の中の人となって、扉を閉じた。
檻の中から、整列している人造人間の部隊を見下ろしたところは、奇観《きかん》であった。なんだか人造人間の部隊のために、あべこべにわれわれが檻の中に閉じこめられてしまったような錯覚《さっかく》をおこした。それほど、人造人間部隊はいかめしい。
そのとき私は、丁度向こう側に、大きな箱のようなものがおいてあるので、何だろうかと、いぶかった。
「あの箱みたいなものは、何ですか」
と、私は、フリッツ大尉にたずねた。
「おや、お前は、勝手なときに、口をきくんだなあ。あの小屋のことが知りたいのかね。見ていれば、今にわかるよ」
そういい捨てて、フリッツ大尉は、右手をあげた。それは、試験始めの合図《あいず》であった。一人の技師が、配電盤のうえについているスイッチを、ぱちりと入れ、そして計器の表をみながら、ハンドルをまわした。他の一人が、九千五百、一万……と、しきりに数字を読みあげる。
「右向け、右!」
フリッツ大尉が叫ぶと、もう一人の技士が、配電盤上のタイプライターのキイのように並んだ釦《ボタン》を、ぽんぽんぽんと叩いた。とたんに、人造人間は、一せいに右へ向いた。生きている軍隊よりもあざやかに、まるで、珠算《しゅざん》のたまが、一せいに落ちるようであった。
「四列縦隊で、前へ!」
ぽんぽんぽんと、
前へ
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