やらを発見させて頂きたいんです。なにか、私に仰有《おっしゃ》ることはありませんか」
 その青年探偵帆村荘六と名乗る男は、痛快に僕の正体を発《あば》いてしまったのだった。
 それから、満二ヶ年の歳月が流れて、公判のあとに公判が追いかけ、遂《つい》に先頃、大審院の判決もすんで、ここに一切の訟訴手続《しょうそてつづ》き[#「訟訴手続《しょうそてつづ》き」は底本では「訟訴手続《そしょうてつづ》き」]が閉鎖されることになった。それから僕は、この拙《つたな》い懺悔録《ざんげろく》を書き綴《つづ》りはじめたのだったが、不思議なことに、どうやらやっと書き終えた今夜は、僕が味わうことの出来る最後の夜らしい。そのことは前日から感付いていたので、別に臆《おく》しもしない。
 この思い出ふかい夜が静かに明けはなれると共に、この監房を立ちいでて、高い絞首台にのぼらねばならないのである。



底本:「海野十三全集 第1巻 遺言状放送」三一書房
   1990(平成2)年10月15日第1版第1刷発行
初出:「新青年」博文館
   1931(昭和6)年11月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:taku
校正:土屋隆
2007年8月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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