ん》たる美辞《びじ》が連《つら》なって居り、切《せつ》に貴郎《あなた》のお出《い》でを待つと結んで、最後に大博士王水険|上《じょう》と初めて差出人の名が出て来た。
「あらなつかしや王水険大先生!」
と、金博士は俄《にわ》かに容《かたち》を改めて、その風変りな書面を押し戴《いただ》いたことだった。
「――ぜひ、わが任地《にんち》に来れ。大きな声ではいえないが、わしも近いうちに、大使館を馘《くび》になるのでのう。わしが飜訳大監《ほんやくたいかん》として威張《いば》っとるうちに、ぜひ来て下されや」
と、王水険博士は、大秘密を洩《も》らして居られる。金博士にしては、かねがねその土地の風光のいいことも聞いていたので、一度はいってみたいと思っていた。そこへ旧師からの誘《さそ》いである。大先生の尊顔《そんがん》も久々《ひさびさ》にて拝《おが》みたいし、旁々《かたがた》かの土地を見物させて貰うことにしようかと、師恩《しおん》に篤《あつ》き金博士は大いに心を動かしたのであった。
かくて博士は、出発の肚《はら》を決めた。いよいよ上海を出発したのが、それから一週間の後のことであった。出発日までの一週間
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