ならないのであるがそのノックの音がまだ聞かれないことだった。仕様書によると、この厳重な一千年不可開の棺桶は、外から開くのでなければ、絶対に開かない仕掛けになっていたのである。棺桶の構造を堅牢にするうえからいって、どうしてもそのようにするよりほか道がなかったのだ。
「どうしたのだろう。眼ざめるのが百六十九日もおそかったものだから、扉をあけに来てくれる者がどこかに旅行にでも出かけてしまったのではなかろうか」
 開かない密室の中で、このような不安に襲われるということは、死刑よりもなおいっそうはげしい恐怖だった。
 彼は、信号装置に故障があるのではないかと思って、そのそばにいって、いくどとなく点検した。だが、故障は発見されなかった。しからば彼の覚醒したことが、東京とニューヨークとハバロフスクの三都へ、電波でもって伝えられていなければならぬはずだった。
「誰も助けにこないというのは、いったいどうしたことだろう?」
 誰も扉をひらきに来ないと、せっかく覚醒した彼フルハタも、あと三十日ぐらい生存できるが、その後は絶対に生きつづける見込みがつかない。彼は、自分の生命が惜しいということよりも、こうして一
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