民するのですか」
「金星へゆくんです。定期的に、地球上の人類をどんどん金星へ送っています」
「へえ、金星。あの星の金星へですか」とフルハタはびっくりした。「とうとう星へ旅行のできる日が来たのか」
「うまくゆけば、もうあと三ヵ月のうちに、地球上の人間はすっかり金星へうつってしまいます」
「えっ、すると地球は空っぽになるのですか。いったいそれはどうしたわけです。この尊い地球を捨てるなんて」
「あとちょうど一年たてば、地球はエックス彗星と衝突して、めちゃめちゃに壊れることが分っているのです」
「はあ、なるほど、彗星との衝突ですか」とフルハタはうなずいたが、「それで地球から移民の必要があるんですね。それなら、金星などゆかないで、地球と気候もいちばんよく似た火星へゆかないのはどうしたわけです」
 するとチタ教授は、今までにない険しい目をして、フルハタをふりかえりながら、いったことである。
「あなたも古いだけあって頭脳がわるいのね。いま地球の人類は、火星の生物と戦争しているのじゃありませんか。われわれが金星移民を計画したとたんに、火星生物は妨害をはじめたのです。だから移民ロケットも、今までに七パーセントが金星についたばかりで、他の九十三パーセントのロケットは、みんな火星生物のためロケットはやぶられ、人類は惨殺されてしまったのですよ。なにしろ火星の生物の方が、悪がしこいのだから仕方がありません。いや、人類はもっと早く宇宙戦争に対して準備をすすめておくべきだったと思いますわ。地球上の人類だけがこの広大なる宇宙でいちばんかしこい生物だと思っていたのが、たいへんな自惚れなんですからね」
 フルハタは、さっきチタ教授が、「戦争はありますわ」といった戦争は、この宇宙戦争を指していたのだと、はじめて気がついた。



底本:「十八時の音楽浴」早川文庫、早川書房
   1976(昭和51)年1月15日発行
   1990(平成2)年4月30日2刷
入力:大野晋
校正:もりみつじゅんじ
2000年1月11日公開
2006年7月20日修正
青空文庫作成ファイル:
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