一等好きな顔に直してもらったのです。顔の美醜ほど、昔人類を悩ましたものはありません。だが考えてみると、あの頃の人間も知恵のない話でした。顔の美醜とは、いわゆる顔を構成している要素であるところの眼や眉や鼻や唇や歯の形とその配列状態によって起るのです。眼がひっこんでいるのなら、そこに肉を植えればいいのです。そんなことは大した手術ではありません。ことに人造肉や人造皮膚ができてから、醜い人間はどんどん顔を直して、美男美女になってしまいました。これから街へ出てみましょうか。きっとあなたは、ただの一人も醜男醜女をも発見できないでしょう」
「おお、――」
といっただけで、フルハタは、あとにつぐべき詞《ことば》を知らなかった。人間の美醜は三万年の人類史を支配したようなものだと思っていたが、今はいくらでも顔をかえられるようになったときいて歎息するよりほかなかった。
火星との戦争
いよいよフルハタは、棺桶から外に足を踏み出すときがきた。大地を歩くなんて、一千年以来のことだと思うと、じつに感慨無量であった。
外へ出てみると、そこは掘りかけたトンネルのようなところだった。そばを見ると、一本の水鉄砲のようなものが転がっている。
「これは何ですか」
とフルハタが訊くと、
「これは孔をあける器械です。土でもコンクリートでも鉄壁でも、かんたんに孔があきますわ。その洞穴《ほらあな》になっているところ、さっき三十分あまりかかって、わたしが掘ったのよ」
と、おどろくべきことをチタ教授はいった。フルハタは、嘘かと思ったが、その水鉄砲みたいな器械は、原子崩壊による巨大なるエネルギーの放出を利用したものであると聞いて、なるほどそうかと思った。
「じゃ、いま動力はすべて原子崩壊からエネルギーを取るのですね」
と訊くと、教援はそうだとこたえて、なんだそんな古いことを聞くといわんばかりの顔をした。
洞穴《ほらあな》から外へ出てみると、かつて科学雑誌に出ていた一千万年後の世界という絵そっくりの街があらわれた。まず目についたのは、路が縦横上下に幾百条と走っていることであった。このおびただしい道路は、一つとしてフルハタの知っている道路のように十文字に交叉していなかった。いずれも上下にくいちがっているので、横断などというようなことがなく、どこまで行っても、信号で停められるといったようなことがな
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