、頭を下げ顔を掩《おお》うたまま、一度も首をあげようとはしなかった。映画が終って、一座の深い溜息《ためいき》と共に、パッと電灯がついた。
「潮」大江山課長は声をかけた。「この撮影者は誰か」
「あいつです」青年はグッと首をもちあげた。「あいつです。深山楢彦《みやまならひこ》――彼奴《あいつ》がやったんです。子爵夫人と僕とは間違ったことをしていました。深山は而《しか》も夫人に恋をしていたのです。彼奴《あいつ》は私達の深夜の室をひそかに窺《うかが》って暗黒の中にあの赤外線映画をとってしまったんです。深山はそれをもって可憐《かれん》なる子爵夫人を幾度となく脅迫《きょうはく》しました。一度は夫人があのフィルムの一端《いったん》を奪ったのですが、それは焼いてしまいました。バッグの底にのこっているフィルムの焼け屑は、あれだったんです。鬼のような深山は、赤外線利用の技術を悪用して、それまでにも、人の寝室を密《ひそ》かに写真にとっては、打ち興じていたという痴漢《ちかん》です。しかし飽《あ》くまで夫人に未練《みれん》をもつ彼は、夫人が意に従わないときはあの映画を公開するといって脅《おびや》かしたのです。夫
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