の標章《マーク》を、車内の明るい燈火《ともしび》の下で、注意深く調べた。前の二枚の標章《マーク》と合《あ》わせてこれで三枚になったのだった。警部の面《おもて》には困惑《こんわく》の色がアリアリと現れた。グッとその小布《こぬの》を掌《て》のうちに握りしめると、警部は、車外に出てザクリと砂利《じゃり》を踏んだ。
(おお呪《のろ》いの標章《マーク》よ)
警部は心の中でそう云って「ううむ」と呻《うな》り声《ごえ》をあげた。それを持っている人間ばかりが、どうして射殺されるのだろう。
窓外《そうがい》から弾丸を射ちこんだとすれば、その犯人は、なんという射撃の名人だろうか。呪《のろ》いの標章《マーク》を贈ったその人間を覘《ねら》うこと正確に、しかもその心臓を美事《みごと》に射ち貫《つらぬ》くことは、実に容易ならぬ技量である。だがこの悪意ある射撃は、世紀末的な廃頽《はいたい》せる現代に於《おい》て、なんと似合わしいデカダン・スポーツではあるまいか。
小暗《こぐら》いレールを踏み越えて、ヒラリとプラットホームに飛びあがった大江山警部の鼻先に、ヌックリ突立《つった》った男があった。
「大江山さん、豪
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