さいもので扇形《おうぎがた》をしている。
 それを頭目は戸倉の前へつきつけた。
「どうだ。これが見えないか」
「あッそれだ。や、汝《なんじ》が持っていたのか。ちえッ」
 戸倉老人は、かん高い声で叫ぶと、手を延《の》ばそうとした。しかし手足は、椅子車に厳重にしばりつけられてあって、手を延ばすどころではない。彼は残念がって、かッと口をあくと、頭目のさしだしている黄金メダルを目がけて、かみついた。
「おっと、らんぼうしては困る。はっはっはっ」
 頭目は、あやういところで、手を引いた。
「はっはっはっ。これが欲しいんだな。きさまにくれてやらないでもないが、その前に、きさまが持っている他の半分をこっちへだせ。一週間あずかったら、両方とも、きれいにきさまに返してやる。どうだ、いい条件だろうが。うんといえ」
 このとき戸倉は、ぐったりとして、頭を椅子の背につけた。目をむいているのか、目をとじているのか、それは茶色の眼鏡にさえぎられて分らないが、彼の両肩がはげしく息をついているところを見ると、戸倉老人は今なんともいえない悪い気持になって苦しんでいるものと思われる。もちろん、彼は頭目の話しかけに、一度もこたえない。
「黙っていては、わからんじゃないか。わしは早い取引を希望しているのだ。おい、戸倉。きさまが黄金三日月をかくしている場所をわしが知らないとでも思うのかい」
 それを聞いて戸倉老人は、ぎょっと身体をかたくした。
「ははは。今さらあわててもだめだ。わしは気が短い。欲しいものは、さっそく手に入れる。まず、これから外《はず》して……」
 四馬の手が、つと延びた。と思うと、戸倉老人がかけていた茶色の眼鏡が、頭目の手の中にあった。眼鏡をもぎとられた老人の蒼白《そうはく》な顔。両眼は、かたくとじ、唇がわなわなとふるえている。
「ふふふ。きさまがおとなしくしていれば、わしは乱暴をはたらくつもりはない。そこでわしが用のあるのは、きさまが目の穴に入れてある義眼《ぎがん》だ。それを渡してもらおう」
「許さぬ。そんなことは許さぬ。悪魔め」
 老人は大あばれにあばれたいらしいが、手足のいましめは、ぎゅっとおさえつける。
 四馬はそれを冷やかに見下して、
「ええと、きさまの義眼はたしか右の方だったな。おい、みんなきて、戸倉の頭を、椅子の背におしつけていろ」
 木戸や波や、その他の部下が戸倉にとびついて
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