ハンカチーフの半分よりすこし小さい部分だった。それにはこまかく日本文字が書いてあった。少年は、その文字を拾って読み出したが、なにしろ半分ばかりが焼けてしまったので、その文字はつながらなかった。
だが、少年は読めるだけの文字を拾っていた。が、急に彼は顔をこわばらせると、
「ああ、これはたいへんなものだ」と叫んだ。にわかに彼の身体はぶるぶるとふるえだして、とまらなかった。
なぜであろうか。
いったいその焼けのこりの絹のきれは、どんなことが書いてあったろうか。そして半月形の黄金のメダルこそ、いかなる秘密を、かくしているのだろうか。
深山《しんざん》には、にわかに風が出て来た。焚火の火の子が暗い空にまいあがる。
六天山塞《ろくてんさんさい》
さて、戸倉老人をさらっていったヘリコプターはどこへ飛び去ったか。
ヘリコプターは、暮色《ぼしょく》に包まれた山々の上すれすれに、あるときは北へ、あるときは東へ、またあるときは西へと、奇妙な針路をとって、だんだんと、奥山へはいりこんだ。
約一時間飛んでからそのヘリコプターは、闇の中をしずしずと下降し、やがて、ぴったりと着陸した。
その場所は、どういう景色のところで、その飛行場はどんな地形になっているのか、それは肉眼《にくがん》では見えなかった。なにしろ、日はとっぷり暮れ、黒白も見わけられぬほどの闇の夜だったから。ただ、銀河ばかりが、ほの明るく、頭上を流れていた。
このヘリコプターには、精巧なレーダー装置がついていたから、その着陸場を探し求めて、無事に暗夜《あんや》の着陸をやりとげることは、わけのないことだった。レーダー装置は、超短電波を使って、地形をさぐったり、高度を測ったり、目標との距離をだしたりする器械で、夜間には飛行機の目としてたいへん役立つものだ。
こうしてヘリコプターは無事着陸した。しかもまちがいなく六天山塞へもどって来たのである。
六天山塞とは、何であるか?
この山塞について、ここにくわしい話をのべるのは、ひかえよう。それよりも、ヘリコプターのあとについていって、山塞のもようを綴《つづ》った方がいいであろう。
そのヘリコプターが無事着陸すると、操縦席から青い信号灯がうちふられた。
すると、ごおーッという音がして、大地が動きだした。ヘリコプターをのせたまま、大地は横にすべっていった。
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