空中|放《はな》れ業《わざ》
穴の中に落ちこみ、気を失ってしまった春木少年は、その直後に起った地上の大活劇《だいかつげき》を見ることができなかった。
まったく、彼の思いもかけなかったような活劇の幕が、そのとき切って落されたのであった。
ヘリコプターから、とつぜん、だだだだッ、だだだだッと、はげしい機関銃が鳴りだした。弾丸《たま》は、戸倉老人の倒れている身辺《しんぺん》へ、雨のように降りそそいだ。弾丸が地上に達して石にあたると、ぴかぴかッと火花が光り、それが夕暮のうす闇の中に、生き物のようにおどった。だが、弾丸は、戸倉老人のまわりに落ちるだけで、老人の身体は突き刺さなかった。
「うわッ、なんだろう」滝つぼの正面の道路の上に、少年の姿があらわれた。春木ではなかった。牛丸少年であった。彼はようやく生駒《いこま》の滝《たき》の前に今ついたのであった。彼にはまだこの場の事態《じたい》がのみこめていなかった。だから身の危険を感じることもなく、道のまん中に棒立ちになって、火花のおどりを、いぶかしく眺《なが》めたのであった。
が、一瞬ののち、彼は戸倉老人の倒れている姿を認めた。また、つづいて起った銃声のすさまじさによって、はっと身の危険を感じた。
「あ、あぶない」牛丸少年は、身をひるがえすと、かたわらの大きな柿《かき》の木に、するするとのぼった。牛丸は、木登りが得意中の得意だった。だから前後の考えもなく、柿の木なんかによじ登ったのである。それは、彼のために、幸福なことではなかった。
そのときヘリコプターは、戸倉老人のま上まできた。胴《どう》の底に穴があいて、そこから一本のロープがゆれながら、まい下ってきた。
すると、ロープを伝わって、一人の男がするすると下りてきた。そのときロープの先は地上についていた。その男は、カーキ色の作業衣《さぎょうい》に身をかためた男だった。その男も倒れている戸倉老人も共に探照灯の光の中にあった。
老人は、死んでしまったように、動かない。
牛丸少年は、柿の枝につかまって、この有様をびっくりして眺めている。
作業衣の男は、ついに地上に足をつけた。ロープを放して、戸倉老人の方へ走りよった。そして膝をついて老人の身体をしらべだした。彼のために、老人は二三度身体を上向きに又下向きにひっくりかえされた。
しばらくすると、作業衣の男は立
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