とれるだろうか。牛丸少年はそれを宿題として考えはじめると、すこしもたいくつでなくなった。ただし、この宿題の答は、かんたんにはでてこなかった。
「戸倉老人の監房は、もう一階下にあるんだな」やっとこの答が少年の頭の中に浮かんできた。それは小竹さんが食事をはこぶときの行動で、それと察したのである。
なぜかというと、小竹さんが食事を持ってくるときは、それを手さげ式の金属製の岡持《おかもち》に入れて持ってくる。そして牛丸少年の監房の前に止まって、食事をさし入れる。それから小竹さんは、ずんずん奥へ歩いていくが、小竹の足音と岡持のがちゃがちゃ鳴る音が、やがて階段を下っていくのが分る。それから五分ほどすると、小竹さんは引返してきて、牛丸の監房の前を通りすぎる。これによって考えると、戸倉老人は、もう一階下の監房に入れられているらしい。
(一階下にあのおじさんが入れられているんだったら、ぼくと話をするのはちょっとむずかしいことになる)
少年は、ざんねんに思った。
しかしなにかうまい方法を考えつくかもしれないと、その後も頭をひねって、監房の前の交通に注意を怠《おこた》らなかった。
机博士が、朝早く一度、前を往復する。しかし牛丸少年のところへは寄らない。どうやら博士は、階下《した》の戸倉老人を診察にゆくように思われる。老人は、ずっと身体がよくないのであろう。ある日の夕方、食器を下げるために、小竹さんがまわってきた。いつものように頬《ほお》かぶりをし、その上にうす茶色の、かたのくずれた鳥打帽をのせていた。彼は、監房の鉄格子《てつごうし》をとんとんと叩いて、牛丸少年に早く食器をだせとさいそくした。
牛丸は、食器を両手に持って、入口までいった。そして鉄格子の向うに待っている人物と顔を見あわせて、おどろいた。
「しいッ」相手は、唇へ指を立てて、しずかにするようにと注意した。頬かぶりに鳥打帽の姿はいつも見なれた小竹さんの姿だったが、顔はちがっていた。ひげだるまのような戸倉老人であったではないか。
「あッ、あなたは、どうしてここへ……」
「しずかに、わしは君に聞きたいことがあって、危険をおかしてここへやってきた」
と、老人はそれから岡持を床へおき、顔を鉄格子につけて早口で牛丸君に話しかけた。そのときの話は、主に春木少年のことであった。だが老人は、彼が春木に渡した黄金メダルのことについては一
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