に持っていくことは容易なことではなかった。
秋吉警部はだんだんやつれていった。そして事件は迷宮入りらしく思われてきた。
もしも、チャン老人が殺される日、あの店をたずねた客たちが名のってでるなら、警部は有力な手がかりをつかんだであろう。しかし誰も名のってでるものはなかった。むりもない。かかりあいになるのを恐れてのことだ。
金谷《かなや》先生しゃべる
海岸通り横丁《よこちょう》の老骨董商殺《ろうこっとうしょうごろ》しのニュースは、その翌朝には、新聞記事になっていた。
春木少年や牛丸少年の組をあずかっている金谷先生も、この新聞記事を読んだ。そしてすぐ気がついた。
「ははあ。あの店だ。昨日《きのう》飾窓《かざりまど》をのぞきこんだが、金貨の割れたのを、れいれいしく飾ってあった、あのがらくた古物商だ。
あの家の主人が殺されたんだな。それを分っていれば、もっとよく顔を見ておくんだったのに」
と、先生はすこしばかり残念であった。先生は登校すると、この話をとくいになって教員室にしゃべり散らした。
「白いひげを長くたらした爺さんなんですよ。いかにも小金をためているという風に見えましたね。そういえば、福々《ふくぶく》しい顔なんだけれど、どことなくきついところがあったな。やっぱり自分の悲惨な運命が、人相にあらわれていたんですよ」
こんな風に話すものだから聞き手の先生がたは、もっとくわしいことを聞きたがった。
「いや、それだけのこと。ぼくは、中へはいって見ようかと思ったんですが、連れの立花《たちばな》先生がいやな顔をしているので、それはやめましたよ。あのときはいっていれば、もっと諸君におもしろい話ができたんだがなあ」
金谷先生がそういうと、聞手《ききて》の先生たちはみんな笑った。
そこへ立花先生がはいってきた。
「まあ、みなさん、なにをそんなにおもしろがっていらっしゃるんですの」と、にこにこしてたずねた。
「あはは。金谷先生が、例の殺されたチャンという万国骨董商《ばんこくこっとうしょう》の店を、昨日のぞいたというんです」
「まあ、いやなことですわ」
と、立花先生は、美しい眉《まゆ》をひそめた。
「金谷先生は、あの店主が殺されると分っていたら、店の中へはいって、しげしげと見てくるんだったなどというもんだから、みんなで笑っていたところなんです」
「気味のわるい
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