うかご用をハッキリ仰せ下さい」
「ウム」と髭がゆらいだ。「では言うが、君が目下研究中の人造人間のことだが、あれはもう研究をうちきったほうがよくはないかと思うのだ」
「人造人間の研究をうちきれとおっしゃるのですか。それはまた何故です」
「というのはつまり、十八時の音楽浴でもって、住民はすべて鉄のような思想と鉄のような健康とを持つようになったではないか。彼等は皆、理想的な人間だ。しからばこの上に、なお人造人間を作る必要があろうか。人造人間の研究費は国帑《こくど》の二分の一にのぼっている。そんな莫大な費用をかける必要が何処にあるだろうか。音楽浴の制度さえあれば、人造人間の必要はないと言いたい。博士、どうじゃな」
「閣下のおっしゃることは分ります。ひとつ考慮させていただきましょう」
「どうかそうしてくれたまえ。――おお、忘れていた。家内が君に逢いたいそうだ。今夜ちょっと来てもらえまいか」
「はあ承知いたしました。今夜二十時にうかがいます」
 隣りの工作室では、ペンとバラが熱心に計算をつづけていた。二人はお互いに気のつかぬほど仕事に熱中していた。ここでも音楽浴の効きめは素晴らしかったのだ。この国
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