何をしているのかい」
アネットは白痴の唖女のように、ただニコニコと笑っているばかりだった。
「ああ閣下」とバラが血相をかえてやってきた。「アネットは試作品ですから、特別の符号でないと通じないのでございますよ。ミルキ語は、彼女にわからないんですよ」
「なんだって、ミルキ語がわからんというのか。それは実に不便だネ」
とは言ったが、いわゆる白痴美というのであろうか、アネットの美しさに閣下はますますひきつけられていった。
そのとき女大臣はこらえかねたように歯をギリギリ噛みあわせると、アネットのそばに足早に近づいた。そして内ぶところに隠し持ったナイフをキラリと抜くや、それを逆手に持ってアネットの心臓の上をめがけてただひと突きとばかり腕をふるったが、このとき遅しかのとき早し、顔色をかえたバラが身を挺してアサリ女史の腕にシッカと飛びついて、わずかにことなきを得た。しかし女史は大暴れである。バラもまたひどく昂奮していた。
「女大臣、何をなさるのですの」
「お前の知ったことではない。わたしの権限で、この人造人間を殺すのだ」
「殺すのはちょっとお待ち下さいまし」
「なにを邪魔するんだい。生きた人間を
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