下の歯をバリバリ噛みあわせながら、額からはタラタラと脂汗を流していた。
国楽はだんだん激して、熱湯のように住民たちの脳底を蒸していった。紫色に染まった長廊下のあちらこちらでは、獣のような呻り声が発生し、壁体は大砲をうったときのようにピリピリと反響した。
紫の煉獄!
住民の脂汗と呻吟とを載せて、音楽浴は進行していった。そして三十分の時間がたった。紫色の光線がすこしずつうすれて、やがてはじめのように黄色い円窓から、人々の頭上にさわやかなる風のシャワーを浴びせかけた。
音楽浴の終幕だった。
螺旋椅子の上の住民たちは、悪夢から覚めたように天井を仰ぎ、そして隣りをうちながめた。
「うう、音楽浴はすんだぞ」
「さあ、早くおりろ。工場では、繊維の山がおれたち[#「おれたち」に傍点]を待ってらあ」
「うむ、昨日の予定違いを、今日のうちに挽回しておかなくちゃ」
住民たちは、はち切れるような元気さをもって、螺旋椅子から飛びおりるのだった。
ペンもバラも、別人のように溌刺としていた博士コハクのあとにしたがって、元気な足どりでアリシア区に還ってきた。
2
アロアア区から電話がか
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