からは刻々に火星のロケット艦の接近が、か細い声によって報告されてくるのだった。
「どうしたものじゃろう」
 とミルキ閣下は最早絶望の色をかくそうともしなかった。戦隊長はこれに続いてスクリーンの中から言った。
「もちろんこの有様では、火星のロケット艦をやすやすとミルキ国に入城させるより外ありません。せめてここに百名の強健な兵士がおれば、国都は一時支えられます。いや百名と揃わなくとも五十名でもなにかの足しになるんですが、今わが戦隊には、ああ!」
 これを聞いていた女大臣は、眉をピクリと動かして、なにかの決心が彼女についたように見えた。
「おお最後の一策だ?」とアサリ女史は突然叫んだ。
「最後の一策とは?」
「ええ最後の一策ですわ。それはアリシア区の第十室から奥の扉を打ちやぶって、その中から博士コハクの秘蔵している人造人間を引張りだすのです。そしてそれを戦闘配置につかせるのです」
「ああ人造人間」とミルキ閣下は手を叩いたが、また心配そうな顔つきになって、「果してアリシア区の奥にそんな逞ましい人造人間がいるだろうか。それに、あの扉は固い。それをしいて破ろうとすれば、爆発するという」
「なあにそれはまだ確かめたわけではありませんが、そういう気がするのです。わたしはいかなる犠牲を払っても、あの扉を開けてみせます」
「いかなる犠牲を払っても?」
 と戦隊長が眉をひそめて聞きかえした。そこで女大臣は、部屋の中央に突立ち、武者ぶるいをして、突然果敢なる命令を下した。
「爆撃戦隊はアリシア区に進撃して、即刻扉を破壊せよ。索敵戦隊は予備隊として待機を命ずる」
 二人の戦隊長はスクリーンの中で、息を引取る魚のような表情を固化した。ミルキ閣下はああとうめいて、長椅子の上に堂と身をなげかけた。
 アリシア区では、ペンもバラも昔の面影もどこへやら、みいらのように瘠せ衰えていた。
 男学員ペンは画板の上に、なにか訳のわからない機械図を引いていたが、その上には彼の脣から止めどもなく流れだす涎《よだれ》でもって、したたかに濡れていた。男性化してしまった女学員バラは、計算器をガヤガヤと動かしていたが、彼はいくら割っても割りきれない割り算を幾百億の下の桁までも割ろうと無謀な努力を続けていた。そして熱にうかされた人のようにときどきその部屋から突然恋女アネットの名を呼んでいた。
 暗い精神病院のようなそのアリ
前へ 次へ
全31ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング