る様子にミルキ閣下は愕いてついに大喝した。
「待て、アサリ女史。ミルキの名をもって、この人造人間に傷害を加えることを許さぬぞ。人造人間は国のため貴重な研究品だ。わしはいままでに八百億ルクルの金を、この研究のために支払っているぞ、殺しちゃならぬ。ナイフを収めい」
「閣下」とアサリ女史はミルキの胸ぐらを取って、「ご命令には従います。しかし今誓って下さい。この出来損いの人造人間に閣下が人間に対するような言葉をおかけにならぬように」
「うむ。そいつはよくわかっている。わしに何らの他意のないことはお前もよく知っているじゃないか」
そういうと、女大臣はにわかに眼を細くして、おもはゆげに顔を赭らめた。
部屋の隅ではペンがひとりでにがりきっていた。
「なんだ、面白くもない。バラの奴は人造人間を愛してやがるし、女大臣はミルキ閣下と密通していたんだ。それじゃあ俺も遠慮することはなかった。俺と仲のいい靴工ポールの奴は身体を女性に直しやがったが、あれは俺と一緒になりたくてそうしたのにちがいない。よオし、これから行って本気で話をつけてこようや」
9
その翌朝のことだった。
ミルキ閣下と女大臣アサリはお揃いの朝食をとっていた。
女大臣は寝衣《ねまき》を着ていたのに、ミルキ閣下は外出服をつけていた。
「閣下は昨夜ふけて寝床から抜けてゆかれましたね。おかくしになってもだめよ。一体何処へ行ってらしたのです」
「イヤなにちょっと、その……」
「いくらお隠しになっても駄目ですのよ。わたしの部下が、さっき閣下をアリシア区附近でお見かけしたといっていましたよ」
「アリシア区で見かけたというのかい、このわしを」
ミルキ閣下は愕きの目をみはった。
「何のご用があって、わざわざ夜更けに寝床から抜けていらしたのですか」
「何の用って、別に――お前は誤解しているようでいけないよ。昨日もアリシア区を調べてわかったではないか」
「なにがわかったとおっしゃるの」
「ソノつまり、つまりソノ何だ。ええ、昨日アリシア区を調べたが第九室までしか見られなかった。第十室以後は、しいて開けようとすると爆発するという騒ぎだ。しかし第十室以後を見ないというのは、ミルキ国において自分の絶対権力が行われないところもあるという面白くない証拠を残すことになる。それははなはだ残念だからどうにかして中に入りこむ手段はないもの
前へ
次へ
全31ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング