「なに、あれが毛利博士だって。それが、どうして君に分る。」
「そういう気がしてならないんです。それにああして戸を叩く格好が、おじに違いないと思うんです。中へいれた上で、よく調べることにしてください。」
「だが、もしほんとうの月人だったら、困ったことになるよ。そのとき君の立場がなくなるが、いいかね」
「ええ、いいですとも。ぼくは自分の責任をとります」
 正吉は思い切ったことをいった。
 それというのも、さっきカンノ博士の説明を聞いてからこっち、なんだかおじの毛利博士がまだ生きているような気がしてきたのだ。実はあのとき正吉は、カンノ博士の説をあまり信じないようなことは、いったものの。
「隊長。あの月人の姿をした者は、正吉がいうとおり、たしかにわれわれと同じ地球人ですよ。ああいう戸を叩く仕草は、地球人独特の仕草です。月人なら、あんなことはやらないでしょう。ですから、戸口を壊《こわ》して侵入するつもりなら、体当りするとか、すごい道具を持ってくるとか、もっと大げさなことをやると思いますよ」
 そういったのは、カンノ博士だった。博士はいつの間にか正吉のうしろに立っていたのだ。
「なるほど。よろしい。君たちの意見に従って、あの疑問の人物を、中にいれてみよう」
 隊長は、そこで命令を発した。
 命令が出たので、隊員は反対するのを即座《そくざ》にやめた。そして厳重警戒のもとに、戸口を開いて、かの疑問の月人を艇内にいれた。
 かの人物は、両手をあげて、よろめきながらはいって来た。そして急いで自分のかぶっていた兜《かぶと》をぬいだ
 ああ、その下から現われたのは、正しく地球人の顔だった。苦労にやつれた白髪《しらが》の老人の顔だった。
「あ、おじさん。ぼくです。正吉です」
 老人の方へかけだしていった少年こそ、もちろん正吉であった。


   事態は重大


 おそるべき敵と思ったのが、そうでなくて、なつかしい地球人だった。しかも探検家として尊《とうと》い経歴を持つ毛利博士だったのである。
 艇内は、恐怖よりとつぜん歓喜《かんき》に変わって、どっと歓声があがった。
「おお、ようこそ、毛利博士」
「ほう、やっぱりあんたじゃったか、マルモ君」
 毛利博士――これからはモウリ博士と書くことにしよう――そのモウリ博士とマルモ隊長とは手をとりあってふしぎな再会をよろこびあった。
「正吉までに会おうと
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