うと、この月世界の人間も、かなり高い文化を持っていたのではないかと思われる。だから月人は、ばかになりませんよ」
 カンノ博士のことばに、正吉は今までにない感動をおぼえた。月人は、きっと実在するのにちがいない。


   ハンカチーフの研究


 やっとのことで、装甲車隊は、宇宙艇「新月号」が待っているところへ帰りつくことができた。
「ああ、よく帰って来たね」
「ずいぶん心配していたよ。ここに残っている私たちは、ついに悲壮《ひそう》なる最後の決心をしたほどだ」
「いや、心配させてすまなかった。みんな、助かったよ。ありがとう。ありがとう」
 迎える者も迎えられる者も、ともに涙をうかべて、抱きあった。
 装甲車は、すぐさま宇宙艇の中に格納《かくのう》せられた。
 マルモ隊長は、厳重な見張をするように命令した。それは、例の月人たちが、いつ逆襲《ぎゃくしゅう》してくるか分からなかったからである。
 トロイ谷で掘って来たルナビゥムは、大切に倉庫へしまいこまれた。
「どうだい。今日|採《と》ってきたルナビゥムだけで、これから火星を廻って、地球へもどるのに十分だろうか」
 隊長は、機械長のカコ技師にきいた。
「とてもだめですね。どうしても、今日|採《と》ってきた量の三倍は入用《にゅうよう》ですね」
「あと、どれだけいるのか。それでは、明日もう一度トロイ谷へ行って掘ることにしよう」
「しかし隊長。トロイ谷へ行くことは、たいへん危険だと思いますが……」
「危険は分っている。しかし火星へ行くのをやめて、このまま地球へ引っ返すこともできないと、みんなはいうだろう」
「それはそうですね」
「そうだとすれば、われわれはもう一度危険をおかさなくてはならない」
「やっぱり、そういうことになりますかなあ。あの倉庫第九号に貯えておいたルナビゥムが盗まれないであれば、こんな苦労をしないですんだのですがね。あれを盗んだ犯人は、もう分かったのですか」
「カンノ君が調べていたんだが、その調べの途中で、僕たちがトロイ谷から救いをもとめたので、カンノ君は捜査《そうさ》をうち切って、われわれの方へかけつけたのだ。そういうわけだから、カンノ君はまだ犯人をつきとめていないだろう」
 隊長とカコ技師がそういって話をしているところへ、正吉がひょっくり顔を出した。
「あ、隊長。お願いです。ぼくをもう一度、倉庫第九号へ行かせて
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