くり仰天。
「あっ、あつい、あつい」
「わあ、あつい。助けてくれ」
 とでもいうかのように、目を白黒、からだをゆがめて大地をころがり、どことも知れず、闇の中にみんな姿を消してしまった。


   月人《げつじん》の説


 マルモ隊長をはじめ、救われた人々は、大よろこびであった。
 カンノ博士や正吉たちをとりまいて、感謝のことばをおくった。
「あんなおもしろいことは、今までになかったですよ。あいつらは、今もなお、お灸《きゅう》をからだにくっつけて、『あつい、あつい』と悲鳴を挙げているんだと思うと、おかしくておかしくて……」
 そういって笑いこける正吉少年だった。
 みんなも笑った。
「熱弾が、こんなところで最初の手がらをたてようとは、思わなかったねえ」
 と、この熱弾機銃の発明者であるカンノ博士も、にやにや笑っていた。
「さあ、急いでここを引揚げよう。ああいう敵があると分ればぐずぐずしていられない。みんな急いで装甲車へ乗れ。そして急ぎ本艇へかえるのだ」
 マルモ隊長は、引揚げを号令した。
 掘りだしたルナビゥムは、必要量の三分の一にすぎなかったが、今はそれでがまんするほかなかった。一同は前のとおり装甲車に分乗し、急いでトロイ谷《だに》をはなれた。
 一号車の中で、マルモ隊長を中にして、カンノ博士などの幹部や正吉が、今日とつぜん現われた怪しい相手について、意見をのべあった。
「地球をくいつめた強盗団の一味ではないでしょうか」
「彼らはみんなばかに力が強かったですよ。そしてからだもずっと大きく見えた」
「すると何国人《なにこくじん》のギャングかな」
「いや、あれは、われわれの世界の人間ではないと思う」
 そういったのは、マルモ隊長だった。
「地球をくいつめた強盗団ではないとおっしゃるのですか」
「うん。早くいえば、月人だと思う。つまり月世界に住んでいる人間なんだ」
「それは、おかしいですね。月は死の世界で、冷《ひ》えきっています。そして空気もなければ水もない。それなのに、月の世界に住んでいる人間があるんですか」
 これは正吉の質問だった。
 すると、マルモ隊長は、にっこりとうなずいて、
「もっともだ。そういう疑問を持つのは。だがね、この死の世界と見える月にも、あんがい生物が住んでいられるかもしれない。実は今までわしは、月世界には生物なしという考えでいたので、今日まで問題
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