三センチほどの厚さでたまっている。
 もちろん草も生えていなければ、虫が鳴いているわけでもない。自分の足音さえ聞えないのだ。
 ぐるっと山のふもとをまわりこむと、目の前に洞門《どうもん》があらわれた。
「ああ、あんなものがある」
 正吉はびっくりした。洞門の中から、がんじょうな鉄の扉も見える。月の世界にそんな建造物があろうとは思わなかった。
 そばへ近づくと、ますますおどろきは大きくなった。鉄の扉には、日本文字が、うす彫《ぼ》りで並んでいた。「新につぽん探検隊月世界倉庫第九号」
 こんなところに、探検隊の倉庫があったのか。いったい中には、何がはいっているのであろうか。
「おや、これはおかしいぞ。門の扉がこわれている。どうしたんだろう」
 カンノ博士の声が、電波にのって、正吉の受話器にもひびいた。なるほど、扉の下が大きくひんまげられて、犬くぐりよりもやや大きい三角形の穴があいている。一同はそばへ走りよったが、またつづいてカンノ博士の声。
「おや扉の中に、白骨死体《はっこつしたい》がある。誰だろう。こんなところで死んでいる人間は……」


   消《き》えうせた燃料《ねんりょう》


 なぞの人骨はそのままにしておいて、急ぐ方の仕事にとりかかった。
 鉄扉へ、装甲車の中にある発電機から、電気が通じられると、洞門の扉はぎいぎいと上へまきとられて、入口はあいた。
 四台の装甲車は、その中へはいっていった。カコ技師が若い技術員をさしずして、発電室で電気を起させた。間もなく内部には、あかるく電燈がついた。そして洞穴《どうけつ》利用の倉庫がどんなものか、はっきり見えた。
 正吉少年は、さっきから空気服に身をかため、カコ技師のうしろについて、あっちへ行ったり、こっちへ来たりしていたが、電燈がぱっとついたときに、「おお」とおどろきの声をあげた。
 じつに大仕掛の倉庫であった。まるで地底の大工場へ行ったような気がする。各種のエンジンの予備品が、数も知れないほどたくさん、ずらりと並んでいた。その部品も、番号札をつけて、棚《たな》という棚をうずめつくしている。
「ねえ、カコさん。なぜこんなに、たくさんの機械るいをたくわえておくのですか」
 正吉少年はたずねた。もちろん電波を使っての会話だ。
「それはね、宇宙探検の途中で、ロケットがこわれることがよくある。そのとき地球までひっかえすことができ
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