が月世界の昼間なんですか。へんてこですね」
 正吉には、いろいろと、めずらしく感ずることばかりだった。
 これは後の出来事であるが、正吉は太陽がさっぱり西の山へ沈まないので、ふしぎに思って、カンノ博士にきいた。すると博士は笑って、
「二十四時間待っても、太陽は西の山へは沈まないよ、月世界では二週間ぶっつづけに昼間なんだ。そして次の二週間が夜なんだ。夜はこわいぞ。ものすごくて、さびしいよ」
 と説明してきかせた。
 とにかく勝手がちがうことばかりだ。
 もう一つ、正吉が面くらった話をしよう。それは地球を見たのだ。地球は、地球で見る満月の十倍以上も大きい明るい球《きゅう》に見えたが、満月と同じ形ではなく、かたわれ月ぐらいのところだった。つまり一部分が、月のために影になっているのだ。
 その地球が、さっぱり動かないのであった。同じ方向の、同じ高さの中天に輝いていて、そこにいつまでもじっとしているのである。地球から見た月はよく動くから、月から見た地球もさぞ走るだろうと思ったが、そうでないのだ。
 ただ、満月――いや満地になったり、三日月――ではない三日地になったり、日に日に影の大ききがちがっていくだけだった。
「ふーン。どうも気がへんになりそうだ、しょうがない」
 正吉は、そういって、頭を抱《かか》えることが初めのうちはよくあった。
 料理番のキンちゃんと来たら、その理屈がさっぱりのみこめないので、正吉ほどにおどろいていなかったようである。
 こんな話は後の話だ。さて九台の装甲車は、みんなロケットの外に出た。
 無電の命令が伝えられる。
 と、一号車を先頭にして、九台の装甲車は月の上を走り出した。どこへ行くのであろうか。
 それはともかく、こうして走っていると、地球の、どこかの沙漠を夜、走っているのと大して気分がちがわない。


   意外な発見


 二時間ばかり走って、装甲車は停った。
 前に、ひどく高い山が見える。山頂《さんちょう》がきらきらと輝いている。
「どうするんですか。下りるんでしょうね」
 正吉がカンノ博士にきいた。
 同じ車に乗っている他の人たちの中には、空気服を着はじめた者もあるから、正吉は、ははあと察《さっ》したのである。
「下りることは下りるが、その前に隕石がとんでいないかどうかをレーダーで調べておく必要がある。今、あそこでやっているのが、そうだ」

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