ます。海底トンネルというのが昔、ありましたね。あれが大きくなっていったと考えてもいいでしょう」
 正吉は海底都市から出かけて、ふたたび上へあがっていった。
 とちゅうに停車場があって、たくさんの小学生が旅行にでかける姿をして、わいわいさわいでいた。
「あ、小学生の遠足ですね。君たち、どこへ行くの」
「カリフォルニアからニューヨークの方へ」
「えっ、カリフォルニアからニューヨークの方へ。僕をからかっちゃいけないねえ」
「からかいやしないよ。ほんとだよ。君はへんな少年だね」
 正吉は、やっつけられた。
 そばにいた区長がにやにや笑いながら、正吉の耳にささやいた。
「ちかごろの小学生はアメリカやヨーロッパへ遠足にいくのです。この駅からは、太平洋横断地下鉄の特別急行列車が出ます。風洞《かざあな》の中を、気密《きみつ》列車が砲弾《ほうだん》のように遠く走っていく、というよりも飛んでいくのですな。十八時間でサンフランシスコへつくんですよ」
「そんなものができたんですか。航空路でもいけるんでしょう」
「空中旅行は、外敵《がいてき》の攻撃を受ける危険がありますからね。この地下鉄の方が安全なんです。なにしろ巨大なる原子力が使えるようになったから、昔の人にはとても考えられないほどの大土木工事や大建築が、どんどん楽にやれるのです。ですから、世界中どこへでも、高速地下鉄で行けるのです」
「ふーン。すると今は地下生活時代ですね」
「まあ、そうでしょうな。しかし空へも発展していますよ。そうそう、明日は、羽田空港から月世界探検隊が十台のロケット艇《てい》に乗って出発することになっています」
 正吉は大きなため息をついてひとりごとをいった。
「三十年たって、こんなに世界や生活がかわるとは思わなかったなあ。こんなにかわると知ったら、三十年前にもっと元気を出して、勉強したものをねえ」
 あとで分った話によると、例のモウリ博士は月世界探検に行ったまま、遭難《そうなん》して帰れなくなっているということだ。こんどの探検隊が、きっと博士を救い出すであろう。


   宇宙探検隊


 正吉は、その日以来、宇宙旅行がしてみたくてたまらなくなった。
 三十年前、やがて月世界へ遊覧《ゆうらん》飛行ができるようになるよと予言する人があったら、その人はみんなから、ほら吹きだと思われたことであろう。それが今は、ほんとに出
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