いては、ガーナー博士はこのことだけを記している。だから君たちの発見した怪魚はよほど値打《ねうち》のあるものだ。私たちも準備をしておいたものがあるから、それを持って、池のところへ行ってみよう」
「ぼくも連れていって下さい」
「もちろん、案内に立ってもらいましょう」
 それからしばらくして、カンノ博士はスミレ女史と連れ立って、艇内から携帯式《けいたいしき》の無電装置のようなものを背負って出てきた。正吉は目を丸くして、それは何をする機械かとたずねた。
「この装置でもって、例の怪魚のことばや、頭脳の働きを記録してくるんだ。これをあとで分析研究して、怪魚がどんな程度の能力《のうりょく》を持った生物であるか、また、さらに分かれば、その怪魚たちは、どんなことを考えていたか、どんなことをしゃべっていたかなど調べてくるのだ」
「ははあ。それはおもしろいですね」
「ああ、そうだ」
 とカンノ博士は、忘れていたことを思い出したらしく、手をうった。
「正吉君。例の怪魚のごきげんをとるために、なにか彼らの喜びそうな食べ物をもっていってやる必要がある。何がいいかね」
「ああ。怪魚にやるごちそうのことですね。それならキンちゃんにまかせるのが一番いいですよ」
 キンちゃんが呼ばれた。そしてカンノ博士の話が伝えられた。キンちゃんは、
「おっと、そのことなら合点《がってん》だ。あっしにすっかりまかせておきなさい」
 キンちゃんは、それから料理部屋へかけこむと、バックにいっぱい食べ物をつめて、提《さ》げて出て来た。
 そこで一行は、例の池へ出かけた。
 正吉とキンちゃんの組と、カンノ博士とスミレ女史との組に分れ、仕事にかかった。正吉とキンちゃんとは、おそるおそる池のそばへ近よって、怪魚《かいぎょ》のごきげんをとりむすぶのであった。キンちゃんの持って来た食べ物は、怪魚たちをよろこばせた。ことに、ソーダ、クラッカーは、怪魚たちをよろこばせた。ソーダ、クラッカーをなげるたびに、数百ぴきの怪魚たちは水面から宙にはねあがり、落ちてくるクラッカーを途中で自分の口に入れようと争った。そのときに初めて怪魚の全身を見ることができた。それは、じつに怪奇というかグロテスクというか、すさまじい格好《かっこう》と色合《いろあい》のものであった。全長は一メートルよりすこし長いくらいで太短かい。上半身は大きいが、下半身が発達していな
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