こまで運がわるいのだろうと、正吉は失望した。しかしよく考えてみる。それは運がわるいのではなくて、そういう場合も考えにいれてこのロケット宇宙艇の設計をしておかねばならなかったのではなかろうか。つまり設計の不完全だ。失敗だ。いく隻《せき》もロケット宇宙艇をこしらえても、完全なそれをこしらえ上げるには、技師たちはまだ勉強をしなくてはならないのだろう。ことに、机のうえで頭をひねるだけではなく宇宙旅行の経験をつんだマルモ・ケン氏のような人から、実地の話をよく聞いて、それを土台にして設計をしないと完全なものは出来ない。
 乗組員の煙の中をくぐっての一生けんめいな努力によって、モーターの配線が、あたらしく張られた。それで気密扉が下りるようになった。
 それが下りると、火災の方もやや下火となった。しかしまだときどき小爆発をするので安心はならなかった。
 幸いにも、火星への距離はいよいよ近くなり、着陸まではまず持ちこたえられることが分かって乗組員たちの顔も大分明るくなった。
 ロケット宇宙艇新月号が、火星に着陸したのは、月世界をとびだしてから、ちょうど三ヶ月と二日目だった。火災のために到着がすこしくるって遅くなったが、だいたい予定どおりであった。
 着陸のときは、まだ火災は消え切っていないし、宇宙塵にやられてこわれた部分はそのままであったから、はたして無事に着陸できるかと案じられた。
 だが万事うまくいった。艇の下側から、着陸用のソリがひきだされる。そして火星の表面に着陸地帯として、もってこいの平らな砂漠《さばく》を探しあてると、一気にそれへまい下ったのであった。
 新月号が火星のふしぎな巨木《きょぼく》の林を横にながめながら、まっ白い砂漠の上に砂煙をうしろへまきあげつつ着陸したところは、実に壮観であった。
 月世界へ着陸したときの感じと、こんど火星へ着陸したときの感じとでは、たいへんちがう。
 月世界は空気のない冷たい死の世界、氷の国であった。火星はそうではない。すくないながら空気もある。温かくもある。死の世界ではなく、形こそ怪異《かいい》であるが、植物も繁茂《はんも》している。
 また、どこかに火星人がすんでいるとも考えられる。火星の方が月世界よりも、ずっと住みよい。
 そういうことが、探検隊員たちをほっとさせたが。
 マルモ隊長は、着陸と同時に乗組員総がかりで、火災を完全に消す
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