み、その奥に、半ば骸骨《がいこつ》になった死神の顔がのぞいている――というマスクであった。
 何人であろうか、こんなおそろしいお面をつけて、こんなところに鉄のくさりでつながれているのは。
 かなり永い間、怪人は呼吸をはずませ、肩を波のように上下し、指でのどをかきむしり、苦しみつづけていた。そのうちに、ようやくおさまったものと見え、ふらふらと立ち上った。そして鉄の棒をとって、土台石を動しはじめた。元のように土台石を直そうというのであろう。
 八木君は、溺死《できし》したのではなかろうか。土台石を元へもどすよりも、早く八木君をかいほうしてもらいたいと、この際、誰でも思うであろう。ところが怪人は、そんなことは捨《す》ておいて、土台石を元のとおりに直すことに夢中になっているように見えた。そして、その間にも、ときどきうしろをふりかえって、このガラス廊下の入り口の方を気にしていた。

   語る怪囚人《かいしゅうじん》

 怪囚人は、一息いれると、八木少年のそばににじりより、気を失っている少年をよびさまそうとつとめた。
 少年は、やっと気がついた。そしてきょろきょろと、あたりを見まわした。
「あ、あなたは?」
 怪囚人は、しっかりと少年を抱《かか》えていて、はなさなかった。そして仮面をかぶった自分の顔を見られまいと、顔をそっぽに向けていた。
「もう心配ありません。きみの生命、助かりました」
 怪囚人は聞きにくいことばで、少年をなぐさめた。
「ああ、そうだった、ぼくが地下道の中で溺死《できし》するとき、あなたはぼくを助けてくだすったのですね。ありがとう、ありがとう」
「そうです。私、君を助けました。君はかわいそうでありました。私は自分のためにこしらえてあった、脱走《だっそう》の穴を利用して、きみを救いました」
「えっ、脱走ですって、あなたは誰です」
 八木少年は相手の腕をおしのけて、相手をよく見ようとした。怪囚人は、もはや自分の姿を見られることをさけようとはしなかった。
「おお、あなたは……」
 八木少年はびっくりして、うしろへとびのいた。おそろしい顔だ、太い鉄鎖《てっさ》でつながれている囚人だ。極悪《ごくあく》の人間なのであろう。なんというおそろしいことだ。
 だが、次の瞬間、八木少年は前へとび出すと、死神の面をかぶった囚人の膝に、がばとすがりついた。そして涙と共に、おわびをい
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