じのぼって、から井戸の上へ出なくてはならないと思った。しかし十五メートルも高いところをうまくのぼれるかしらん。
 八木は綱を見つめた。
「えいッ」
 彼は綱にとびついた。
 と彼はどすんと尻餅《しりもち》をついた。いやというほど椎骨《ついこつ》をうった。それと共に大きな音がして、上から綱がどしゃどしゃと落ちて来て、彼の上にのしかかった。
 せっかくの頼みに思う綱が、どうしたわけか、上の方ではずれて、落ちて来たのだ。さあたいへん。もうここから井戸を出ることができなくなった。彼は困りきって、うらめしそうに井戸を見上げた。そのときであった。井戸の上に、うす青い鬼火が二つ、何に狂うか、からみ合いつつおどっていた。八木少年は「うん」と呻《うな》って、気絶《きぜつ》した。

   怪音

 井戸の外で、八木少年を待っていた四人の少年探偵は、いったいどうしたのであろうか。それを語るには、すこし以前にかえらなくてはならない。
「どうしたんだろう、八木君は、おそいじゃないか」
「もう引返《ひきかえ》してこなければならないのに、へんだねえ。呼んでみようか」
「うん、呼んでみよう」
 そこで六条、五井、四本、二宮の四人が、井戸の中に頭をさしいれて、
「八木君、早くかえっておいでよ」
 と、声を合わせて叫んだ。
 そのあと、四名の少年は、中から八木の返事がもどって来るかと、耳をすまして聞いていた。するとその返事はなく、そのかわりに、うしろの方、つまりトンネルの入り口の方で、あっはっはっと大声に笑う者があった。それにつづいて、重い金属性の大戸が、がらがらッと引かれるような音がしたのだ。
 四少年は顔を見合わせた。
「あの音は、なんだろう」
「時計屋敷の玄関の戸がひらいたんじゃないかしらん」
「笑ったようだね、誰だろう」
「村の衆《しゅう》かもしれない、早く行ってみよう」
「よし、みんな走れ」
 どやどやと、四少年はトンネルを逆に走った。そしてやがて、すぐむこうに、トンネルの口を通して、まぶしい日光をあびた外の景色が見えるところまで来たと思ったら、
「あッ」
「うわッ」
 と、四少年はめいめいに叫び声をあげて、地上から消えた。
 いつの間にできたものか、トンネルの道の一部が、大きな穴になっていたのだ、四少年は重《かさ》なりあって穴の中に落ちた。
 がらがらがらッと、重い金属製の戸が引かれる音を
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