しれないよ。どうせ下りるなら、くらがり井戸をそっと下りて行く方がいいと思う」
八木はそういった。
「よし、君の好きなようにしたがいい、そのかわり、もし危険を感じたら、この綱をゆすぶるんだよ。それが信号さ、SOSの危険信号さ。するとぼくたち四人は力をあわせて、すぐこの綱を引張《ひっぱ》りあげるからね、君はしっかり綱につかまっているんだよ」
「うん、分ったよ、それじゃ頼むよ、では、ぼくは井戸の中へはいってみるよ」
八木少年は、もうかくごをきめて、綱を握り、身体をまかせた。しずかに、そろそろと綱を伝わって下りていく。
ひえびえと、しめった井戸の冷たさが、八木のくびのあたりを襲《おそ》った。ますます暗い、五メートル、十メートルと下りていくにつれて心細さがわく。
しかしもう決心したことだから、途中でもって、「この綱をひき上げてくれ」などと弱音《よわね》があげられたものではない。八木少年は、自分の心をはげましながら、なおもするすると、から井戸を下りていった。
「あッ」
いきなりあたりがうす明るくなった。それとほとんど同時に、八木の足は下についた。
さあ、ここはどんなところかと、八木少年は、すばやく身構《みがま》えをして、ぐるっと四方八方をにらみまわした。そこは一坪ばかりの円形の穴倉《あなぐら》になっていた。そこから一方へトンネルがつづいていた。
(どこへつづいているトンネルだろうか)
分らない、その奥のことは。
ガラス天井《てんじょう》
八木少年は、すかしてみたけれど、奥はほの明るいだけで、はっきりしたものの形は見えない。
(あの明るさは、どこからさしこんでいる明るさだろうか、あそこまで行けば、もっとこのトンネルの中のことが分るかもしれない)
そう思った八木は、とことことトンネルを歩きだした。
行きついてみると、その明るい場所は、トンネルの曲りかどになっていた。明りは右手からさしこんでいる。その右手をのぞきこむと、扉があった。
その扉は、さびた鉄の扉だった。
ハンドルがついていたので、それをにぎって、扉をあけようと、いろいろやってみた。しかし扉はびくともしなかった。さびついているのかもしれない。
(この扉があくと、きっと、おもしろいことが分るんだろうが、ざんねん……)
そのときであった。八木の立っているところが、急に光がかげったように暗くなっ
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