びしく警戒しながら、おおよその見当をつけて、南の方へズンズン歩いていった。
隆魔山《こうまさん》――という、島で有名な山のことは僕は一度来て知っていた。見覚えのある蓮照寺の垣根の前にヒョックリ出たときは、夢のように嬉しかった。
「裏門は何処だろう?」
尼寺の垣根は、まるで小型の万里の長城のように、どこまでも続いていた。どこが裏門やら探すのに骨が折れたが、とにかく門が見つかったものだから、そこへ飛びこんだ。
尼寺の庭は文字どおり闇黒だった。どこに鐘楼《しょうろう》があるのやら、径《みち》があるのやら、見当がつかなかった。――僕は棒切れを一本拾って、それを振りまわしながら、寺院の庭を歩きまわった。三十分ぐらいもグルグル歩きまわった末、祭りの灯でほの明るい空を大きな鐘楼の甍《いらか》が抜き絵のようにクッキリ浮かんでいるのを発見して、僕は歓喜した。
鐘楼のかげの庵室を探しあてることなどは、もはやさしたる苦労ではなかった。庵室の障子には熟しきった梅の実のように、真黄色な灯がうつっていた。
庵室の扉に、ソッと手をかけたとき、
「誰方《どなた》?」
という低い声が、うちから聞こえた。
「
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