ただけるでしょうね」
「仕方がありません。前に云ったとおり、僕は庵主さんの命令に、絶対に服従します」
「結構です。――では、仕度にかかりましょう」
そういうと、庵主は僕をさしまねいて、隣室の戸棚から、一つの葛籠《つづら》を下ろすと、これを弥陀の前にまで担がせた。僕が蓋を明けましょうかというと、まあ暫くといって止めた。
「これから貴方を変装させるのよ。それですっかり裸になって下さい」
僕は庵主の顔を見たが、諦めて学生服を脱ぎ、それから襯衣を脱ぎ、遂に下帯一つになってしまった。
「さあ、それでいい。……ではこれから着つけにかかります。そこでこれで目隠しをしましょう。すっかり済むまで、貴方に見せたくないのよ」
僕はただ溜息をつくだけだった。どんな大袈裟《おおげさ》なことが始まるかしらないが、云うとおり目隠しをする。すると庵主は、それを解いて、もう一度ギュッと縛り直した。――僕はもう何も見えなくなった。ただ鼓膜だけが頼みであった。
「ようございますか――黙ってさせるのよ」
眼が見えなくなると、庵主の円らかな頭は見えず、声だけが聞えた。するとその声だけを聞いていると、庵主は実に若々しい女性であることがハッキリ感じられた。
「おやッ――」
きつい猿股のようなものが履《はか》されたと思うと、次には胸のところから踵《かかと》のところへ届くほどのサラサラした長い布で巻かれた。なんだか、艶めかしいいい香が鼻をうった。そうだ、昨夜もこのような匂いがしたっけ。
「両手をあげてよ、――」
「呀《あ》ッ……」
胸のまわりに、何かグルグルと捲きつけた。
次に、彼女が背後にまわる気配がして、こんどは肩の上からゾロリとした着物のようなものを着せた。(和服らしい?)
すると、こんどは腰骨のあたりを、細い紐でギュウギュウと巻いた。それがすむと、なんだか胸のところへたくしこみ、シュウシュウと音のする幅のある帯らしいものを乳の下に巻きつけた。――僕はドキンとした。頬が火のように火照《ほて》ってきた。
(これは女装じゃないか?)
それから気をつけていると、後のところはいちいち思い当った。さっき着たのは長襦袢らしく、その上にまた重い袖のある着物が着せられ、やがて腕をあげてその袖がグルグルと巻きつけられ、こんどは胴中に幅の広い丸帯が締められ、そして最後に、羽織が着せられたことまで分った。庵主はそ
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