ばかりの激情が辛《かろ》うじて堰《せ》きとめられていることが、彼の痙攣《けいれん》する唇から読みとれた。
「昨日も御来訪下すったそうですが、生憎《あいにく》で失礼をいたしました。……では御用件というのを承《うけたまわ》りましょうか」
私は、頬髭を軽くつまみあげながら、早速《さっそく》、話を切りだしたのであった。
「私は、先生が、御依頼した事件につき、非常に迅速《じんそく》に、しかも結論を簡単|明瞭《めいりょう》に、探しだして下さるという評判を承って、大いに喜んで参ったような次第なのですが……」
「それで――お識《し》りになりたい点というのは」
「ハイ。その、それは、今から二十年前のことになりますが――先生もよっく御記憶かと存じますが――東京を出発して無着陸世界一周飛行の途にのぼったまま行方不明となった松風号《まつかぜごう》の最後を識りたいのです」
「なに、松風号の最後?」と私は相良十吉の前に驚きの眼を瞠《みは》ってみせた。「あれは東京からコースを西にとり、確かインドシナあたりまでは飛んでいるのを見かけた者があるが、それっきり消息を断《た》ってしまった、というのでしたね。各新聞社の蹶起《けっき》を先頭として続々大仕掛けの捜査隊が派遣せられ、凡《およ》そ一年半近くも蒙古《もうこ》、新疆《しんきょう》、西蔵《チベット》、印度《インド》を始め、北極の方まで探し廻ったが、皆目《かいもく》消息がしれなかった、というのでしたね。海中に墜落しているのじゃないかと紫外線写真器でありとあらゆる洋上で撮影をやってみたのだが、矢張《やは》り駄目だったというのでしたね」
「おお、先生はよく覚えていて下さいました。実は、私もあの事件に関係がある人間なので捜査に奔走《ほんそう》しましたが……」
「そうでしたね。相良さんは、松風号の設計家の一人だったのですな」
「やあ、これまで御存知でしたか。それで私はどんなにか手を尽《つく》して探したことでしょう。私自身も探検隊を組織して印度の国境からゴビの沙漠《さばく》へかけて探しにゆきました。結果は何等得るところなしでした。全く行方がわからない。これ程さがして知れないものなら、松風号は空中爆発でもして一団の火焔《かえん》となって飛散したのじゃないか、と随分無理なことまで思いめぐらして見たものでした」
「なるほど」
「ところが最近、恐しい発見にぶつかりました
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