うに、白い角封筒を取り出した。「海軍省からの、でございますよ」
「なに、海軍省から!」
長造の顔は、サッと青ざめた。
「うむ」
彼は封筒の頭を截《き》ると、一葉《いちよう》の海軍|罫紙《けいし》をひっぱり出した。長造の眼は、釘づけにでもされたように、その紙面の一点に止っていたが、軈《やが》てしずかに両眼は閉じられた。その合わせ目から、透明な水球《みずたま》がプツンと躍りだしたかと思うと、ポロリポロリと足許《あしもと》へ転落していった。
その紙面には、次のような文句があった。
戦死認定通知。
潜水艦伊号一〇一|乗組《のりくみ》
海軍一等機関兵 下田清二
[#ここから2字下げ]
右は去る五月十日午後四時頃、北米合衆国《ほくべいがっしゅうこく》メーヤアイランド軍港附近に於て、爆雷《ばくらい》を受け大破損《だいはそん》の後《のち》、行方不明となりたる乗組艦と、運命を共にしたるものと信ぜらる。よりて茲《ここ》に本官は戦死認定通知書を送付《そうふ》し、その忠烈《ちゅうれつ》に対し深厚《しんこう》なる敬意を表《ひょう》するものなり。
昭和十×年五月十三日
聯合艦隊司令長官
[#ここで字下げ終わり]
[#地付き]海軍大将男爵 大鳴門正彦
(とうとう、清二は殺《や》られたか!)
「旦那」郵吉が、おずおずと声を出した。「もしや、悪い報《しら》せでも……」
郵吉は、陸海軍から出した戦死通知を、何十通となく、区内に配達してあるいた経験から、充分それと承知をしているのだったが……。
「なァに――」
長造は、何も知らぬお妻が、奥から印鑑《いんかん》をもって来るのを見ると、グッと唇を噛んで堪《こら》えた。
「大したことじゃないよ。郵どん」
「……」郵どんは、長造の胸の中を察しやって、無言で頭を下げた。そして配達証に判を貰うと逃げるように、店先を出ていった。
「あなた――」その場の様子に、早くも気付いたお内儀《かみ》は、恐ろしそうに、やっと夫の名を呼んだだけだった。
「おお、お妻、一緒に、奥へ来な」
長造は、スタスタ奥の間へ入っていった。
店の前の、警戒管制で暗くなった路面を、一隊の青年団員が、喇叭を吹き吹き、通りすぎた。
空襲警報《くうしゅうけいほう》!
時刻は、時計の外に、一向判らぬ地下室のことであった。それは相当に規模の大きい地
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