る十五キロの地点にまで進出せり。目下、彼我《ひが》の空軍並に機械軍の間に、激烈なる戦闘を交《まじ》えつつあり。就中《なかんずく》、右翼|竜山師団《りゅうざんしだん》は一時苦戦に陥《おちい》りたるも、左翼|仙台《せんだい》師団の急遽《きゅうきょ》救援砲撃により、危機を脱することを得たり。終り」
「労農軍は、いよいよ味なことを、やりよるのう」司令官は、髯のところに、手をやった。
「閣下」と呼んだのは、草津参謀だった。「市川町《いちかわまち》附近の準備は唯今を以て、完成いたしました。連絡通信の方も、故障なく働作《どうさ》いたします」
「そうか」と将軍は顔をあげて云った。「儂《わし》の考えでは、今夜が最も危険じゃ。もう一度、宇都宮以北の防空監視哨へ、警告を発して置け」
「はッ、承知いたしました」
そこへ、バタバタと、伝令が、電文を握ってきた。
「報告です」
「よオし。こっちへ貸せ」有馬参謀長は、多忙であった。「おお、これは……」
参謀長は、キッと唇を噛んだ。
「閣下。海軍からの報告です。北緯《ほくい》四十一度|東経《とうけい》百四十度を航行中なる第五潜水艦隊の報告によれば、本日午後四時十五分、東北東に向って三十五キロの距離に於て、米国空軍に属する飛行船隊の航空せるを発見せり。該《がい》飛行船隊は、アクロン、ロスアンゼルス、パタビウス、サンタバルバラの順序を以て、高度七千メートル、時速百八十キロ、略西方《ほぼせいほう》に向けて航空中なり。尚《なお》、該隊《がいたい》には、先導偵察機五機、戦闘機十四機を、随行《ずいこう》せしめつつあり。終り」
これを聞いた将校たちは、互《たがい》に顔を見合わせたのだった。いよいよ、恐ろしい怪物が、襲来《しゅうらい》してくるのだった。飛行船といえば、ツェッペリン伯《はく》号を、帝都上空に仰いだことのある日本国民だった。ロスアンゼルス号は[#「号は」は底本では「号」]ツェッペリン伯号の姉妹船、アクロン号、サンタバルバラ号は、それよりも二倍近い、巨大なもの、パタビウス号に至っては、空の帝王と呼ばれる途方もなく尨大《ぼうだい》な全鋼鉄の怪物で、爆弾だけでも、五十|噸《トン》近く、積みこんでいるという物凄《ものすご》い飛行船だった。
日本陸軍にも、海軍にもこれに比敵《ひてき》する飛行船は、一|隻《せき》もなかった。極《ご》く小さい軟式飛行船が、二
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