これが普通にいう爆弾で、いろいろの大きさのものがある。
重さが十二キロのものは、爆発すると直径が五メートルもある大孔を穿《うが》つ。そして十メートル以内の窓|硝子《がらす》を破損し、木造家屋ならば、もう使用出来ない程ひどく壊してしまう。すこし大きくて重さ二十五キロになると、孔の直径七メートル、五メートル以内にある家屋の堅固な石壁を壊す。五十キロのものでは直径九メートル、百キロの爆弾なら直径が十一メートルの孔を造る。この辺のものになると十メートル以内の堅固な石壁も破ってしまう。更に大きい爆弾で二百キロ、三百キロ、五百キロ、二千キロというようなところまである。各々《おのおの》直径十三メートル、十五メートル、十七メートル、二十メートルといった孔が出来る。
五百キロ、一トンなどという人間の背ほどの大きさの爆弾になると附近に落ちたばかりで、爆発によって生ずる空気の圧力で大きい家屋も粉砕してしまう。命中すると、丸ビルのような大建築物も粉砕するという実に恐ろしいもの。
「まあ、私たちはどうすればいいの?」
妻君が心配そうな顔をして叫んだ。
「そりゃもう、大変なことになる。お前と僕とはチリヂリ別れ別れさ。僕は警備員なんかに徴集され、お前のような女達は、甲州の山の中へでも避難することになるだろう。しかし逃げるのが厭なら、お前も働くのだよ。例えば避難所や消毒所で働くのだよ」
「避難所や消毒所? それ、なアに」
「避難所は毒瓦斯《どくガス》の避難所だ。大きい小学校とか、映画館とか、銀行とかいった丈夫な建物を密閉して、そこへは毒瓦斯が侵入しないように予《あらかじ》め用意をして置いて、さあ毒瓦斯が来たというときには、往来に悲鳴をあげている民衆を呼んでやるところさ。消毒所は、もう毒瓦斯が地面を匍《は》ってやって来て、そいつのために中毒して道路の上に倒れる人が一時に沢山出来るわけだが、その人達を担架《たんか》に乗せて消毒所に収容し、解毒法を加える役目なんだ」
「そんなところで働く方がいいわ。しかし一体、戦争は始まるのかしら。そして空襲されるとしたら、一番どこからされ易《やす》いの」
「それは第一が中華民国の上海《シャンハイ》とか広東《カントン》とかいった方面から。第二は露西亜《ロシア》のウラジオから。第三は太平洋方面あるいはアラスカ方面から」
「まア、どの国も、日本を狙っている国ばかりなのね。しかし本当に戦争は起って?」
丁度そのとき、号外の鈴が、けたたましく辻の彼方からひびいてきた。
「オヤ」
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防空隊の組織一覧表
┌─防空飛行隊
┌直接機関┤─高射砲隊
(軍部担当) │ │─高射機関銃隊
┌積極的防空機関┤ └─阻塞及び放流気球隊
│ │ ┌─防空監視哨
│ └補助機関┤─聴音隊
防空司令官┤ │─照空隊
│ └─通信隊
│
│ ┌─消防隊
│ │─燈火管制班
└消極的防空機関 ────│─偽装遮蔽班
(軍民協力または │─避難所管理班
民衆担当) │─情報班
└─警備班
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「号外よ。どうしたのでしょう」
思いついて、ラジオをひねってみたところ、いつもとは違ってアナウンサーの上ずった声が、容易ならぬ臨時ニュースを放送していた。
「帝国政府は、中華民国へ向って航空兵器をこの上輸出する国あらば、これを国防の精神によって、該兵器を没収することを内外に宣言いたしました。これによって対外関係はいよいよ悪化し、帝国政府は遂に宣戦布告を決意したものと見られています。……」
孤立の日本の上には、もう今日明日に迫って爆弾の雨が降ろうとしているのだ。
「僕は洋服に着換えていよう」
夫は妻君の方へ、緊張しきった面を向けたのだった。
米露中からの空襲計画
――昭和×年、某国某所のナイト・クラブの一室にて――
「ねえジョン。お前さん、いよいよ出掛けるのかい」
女は男の膝の上で突然に尋ねた。
「そうさ、メアリーよ。もう命令一つで、|吾が国《ユナイテッド・ステーツ》におさらばだよ」
「大丈夫? 日本の兵士達は強いというじゃないの」
「なに心配はいらない。いくら強くても、わが国の飛行機の優秀さにはかなわないよ。ボーイング機、カーチス機、ダグラス機、こんなに優秀な飛行機は、世界中探したってどこにもない。そして乗り手は、このジョン様だもの、日
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