みても、そのはげしさがわかる。事件後|焼跡《やけあと》に立った一同は、カッパのような顔色にならない者はなかった。
ふしぎにも針目博士はすがたをあらわさなかった(いや、その後も博士は引き続いて、すがたをあらわさないのだ)。前日より、いささか考えるところがあって、ひそかにこの邸のまわりに私服警官数名を配置し、博士の行動を監視させておいた。ところが、かれら監視当直の者の話では博士はずっと邸内にとどまっていたらしく、けっして外出しなかったそうである。
「蜂矢君。きみはどうしてこんどの爆発を予知したのかね」
検事は、うしろをふりかえって、生命《せいめい》を拾うきっかけを作ってくれた探偵にたずねた。
「わかりませんねえ。ただ、さっきはきゅうに気持が悪くなったんです。いまはなんともありません。これは一種の第六感ではないでしょうか」
「きみの第六感だとね。なるほど、そうかもしれない」
いつもならまっこうから、ひやかす長戸検事が、笑いもせず、そういってうなずいた。
「とにかくきみもぼくも、きのう博士をうさんくさい人物とにらんでいたことは、意見一致のようだね。そうだろう」
「そうです。かれこそ、怪金属Qにちがいありません。Qは、ほくが気絶《きぜつ》している間《ま》に、本当の針目博士を殺し、そして博士の頭を切り開いて、じぶんがその中へはいりこみ、あとをたくみに電気縫合器《でんきぬいあわせき》かなにかで縫いつけ、ぼくが気がついたときにはすっかり、針目博士にばけて[#「ばけて」に傍点]いたのにちがいありません」
「そうだ。そうでなくては、われわれを呼びよせて、みな殺しにする必要はなかったはずだ。もし本当の博士だったとしたらね」
「本当の博士なら『わし』などとはいわず『わたし』というはずです。それから話のあいだに、博士であることをわすれて、Qが話しているような失策を二度か三度やりましたね」
「そうだった。そんなことから、Qはぼくたちを生かしておけないと考え、きゅうにきょうの午後二時かっきり、時刻厳守《じこくげんしゅ》で会うなんていいだしたのだろう。どこまでわるがしこい奴だろう」
このとおり長戸検事と蜂矢探偵の意見はあったようだが、はたしうる一点はそのとおりかどうか、いま、にわかにはっきり断言はできない。
もしも万一、ふたりの説がほんとうで、怪金属Qが第二の爆発をのがれて、生命《せいめい》をまっとうしているとしたら、そのうちにきっと奇妙な事件がおこり、新聞やラジオの大きなニュースとして報道されるだろう。諸君は、それに細心《さいしん》の注意をはらっていなくてはならない。これは常識をこえたあやしい出来事だと思うものにぶつかったら、なにをおいても、検察当局へ急報するのが諸君の義務であると思う。
Qは、人間よりもすぐれた思考力と、そして惨酷《ざんこく》な心とを持っているので、もしかれが生きていたなら、こんどはじめる仕事は、われわれの想像をこえた驚天動地《きょうてんどうち》の大事件であろうと思う。
ただに日本国内だけの出来事に注意するだけでなく、広く全世界、いや宇宙いっぱいにも注意力を向けていなくてはならない。
大魔力《だいまりょく》を持った人造生命《じんぞうせいめい》の主人公Qこそ、小さい日本だけを舞台にして満足しているような、そんな小さなものではないのだから。
底本:「海野十三全集 第12巻 超人間X号」三一書房
1990(平成2)年8月15日第1版第1刷発行
初出:「サイエンス」
1947(昭和22)年12月〜1949(昭和24)年2月号
入力:tatsuki
校正:原田頌子
2001年12月28日公開
2006年8月1日修正
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