、島にはまだ、吾が友が居る、彼等をどうすべきかが、残された問題だ」
「断然、救わねばならぬ」
 ダビットが手をあげた。
「人道上ほうっておけない、人々はだれも自由をうる権利があるんだ。ついては、だれが救《たす》けに行くか」
 玉太郎が手をあげた。
「僕が行きましょう」
「小さい、日本の少年よ、それはこまる」
 ダビットがおどけていった。
「僕も行く。それにこれからどのくらい航海しなければならぬかわからぬ本船には、食糧がない。椰子《やし》の実でもなんでもいい、食べるものを集めることもしなければならぬ。救助とともにその両方の任務をおって、僕も行こう」
「では、島に行く希望者をつのります」
 みんなが手をあげた。
「みんなに行かれては船を守る者がなくてはこまる。どうだろう、誰が船に残るか、誰が島に行くか、僕に一任させてくれないか」
「ケンに一任させよう。僕は賛成だ」
 ダビットが一同の姿を見まわした。
「議長」
 張が手をあげた。
「僕は船に残りたい。といっても、島の友人たちを救うのがいやだからではないのだ。僕は友人たちがくる前に、船長室のあの不気味《ぶきみ》な飾《かざ》りものを処分しよう。死者《ししゃ》の霊《れい》をあつかう役目に僕を任命していただければ、光栄だ」
「よろしい、張君、君は残れ、それからラツール、君は労《つか》れすぎている、君も残れ、それから玉太郎君、君もだ」
「僕は行きたいのです」
「僕のかわりにつれていってほしい」ラツールも口をそえた。
「ダビット、君は……」
「僕は行きたいし、残りたい、というのは、張があのミイラ先生を処分するところをカメラに収めたいし、同時に君ら救援隊の冒険もカメラに入れたいんだ」
 ダビットカメラマンはなかなか慾張りだ。
 ラウダは道案内をしなければならないので、当然行くことになった。
 結局、船にはラツールと張と、ポチを残すことにして、一同はボートで出発と決定したのである。
 船は錨《いかり》を入れた。
 一同は縄をつたわって、ボートに乗り込む。ケンとダビットがオールをにぎった。ラウダが舵《かじ》をとった。
 恐竜のいない海岸につけなければ危険だ。それには、ラウダの知識が一番この場合役に立つ。
 しずかな海面だ。
 みどり色の水をとおして、いろいろの美しい色の魚がおよぎまわっていた。
「よし、東海岸の入江につけよう」
 もう、太陽が水平線のよこにぴょっこり顔を出したころだったので、波は金色に、銀色に、また赤や紫にかがやいて、恐竜島の緑の島が刻々《こくこく》にさまざまな色彩で染めあげられていくところだった。
「きれいだなあ、絵より美しい。天然色映画よりきれいだなあ」
 ダビットがあたりを見まわした。
「天然色フィルムをおいて来たのが、残念だった」
 と首をすくめる。
 ギイ、ギイ、と船は軽く波の上をすべって行く。
 やがて、東海岸の入江。
 そこへボートをつなぐと、一同は海岸づたいにしばらくまわって、山へ入った。
「あのあたりには椰子林があるし、天然の薯《いも》も少しはあるです。それから、こっちのあのジャングル地帯には食べられそうな草がある。蜜蜂《みつばち》の巣《す》なんかも御馳走だ」
 ラウダは一つ一つ説明しながら先に立った。
 みんなのいるのは西海岸だ。そこへ行くには恐竜の谷を越えるのが近道である。
「大丈夫、恐竜については、僕は自信がある。奴等は口笛の音が大好きなんだ。口笛で僕は彼等をあやつる術《すべ》を知っている」
「口笛」
「うん、あのピー、ピーというしずかな奴だ。奴等の一番恐れているのは雷だ。あの光をもっとも恐れる。だから、汽船のスクリューの音だとか飛行機の爆音なんか大きらいらしい。静かな高い音が、いいらしいね」
 ラウダは自分の経験をすっかり話してくれた。
 そこで思い出させるのはツルガ博士が沼のほとりで、竪琴《たてごと》をぽろんぽろんとしずかにひいているのをじっと聞いていた恐竜のことだ。奴等は音楽が好きらしい。
一行は島のジャングルをぬけて、恐竜の谷の上に出た。
「すばらしい眺めじゃないかケン、どうだこの朝日のかがやいた雄大な景観は、一カット行こうと思うよ」
「いいだろう。下からだんだん上にアップしたまえ」
 ダビットのカメラがジー、ジーと音をたてた。
「上りきったところで、右に移動する。その樹のあたりで、海を入れてカットだ」
 映画監督ケンの指導はなかなかこまかい。
「このあたりで、恐竜君出てくれないかな、わがラウダ君の口笛に合せて、恐竜がレビューでもしてくれると、ニューヨーク劇場で一ヶ年のロングショウになる」
 カメラをおさめながらダビットの、相変らずの冗談口《じょうだんぐち》がつづく。
 博士はどうしているだろう。少女ネリは無事かしら、それから実業家のマルタン氏、みんな
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