このとき発言した。
「うん。それは考えないでもなかったが、ちょっとは、できないね」
 と、監督ケンが、今までのいきおいににず、尻ごみをする。
「わしは、一たん、うしろへ下って、すこしじゅんびをした上で、恐竜へむかうのがいいと思うね」
 これは伯爵隊長のことばだ。
「そうですか。それではぼくひとりで、崖の上へ行ってみましょう。みなさん、ここで待っていて下さい」
 玉太郎はポチの頭をなでながら、そういった。
「そりゃ冒険だ。君ひとりで行くのはよろしくない」
 ケンとダビットが、このとき顔を見合わせて何かいっていたが、話がきまったと見え、
「よろしい。玉太郎君にさんせい。ぼくたち二人も、君といっしょに崖をのぼるよ。なにしろ百万ドルの賞金をつかむためには、ぐずぐずしていられないからね」
 映画斑の二人が玉太郎と共に、崖上へ行くことを承知したので、残る伯爵隊長もお尻がむずむずしてきた。いっしょに行きたくもあるし、危険で行きたくなくもある。
 だが、玉太郎と二人のアメリカ人が崖をのぼりだすと、セキストン伯爵も、一番最後から崖へ手をかけてのぼりはじめた。
 ポチは、首玉に綱がむすびつけられ、綱のはしは玉太郎のからだにしっかりとしばりつけてあった。
 ようやく三人は崖の上にのぼりついた。
 ポチがほえた。
 崖のとちゅうで、はあはあと息を切っていた伯爵が、はっと体をふせた。またもや恐竜が現われたとかんちがいしたらしい。
「犬ははなしたがいいよ、危険を予知することができるからそうしたまえ」
 監督ケンが、玉太郎にいった。
 玉太郎も、それはそうだと気がついたので、ポチの首から綱をはずした。ポチはよろこんで、そこら中を嗅《か》ぎながら走りまわる。
 しかし、恐竜の首がひこんだ林の奥は、しいんと、しずまりかえっていた。


   恐竜の気持


「さあ、出かけましょうか」
 玉太郎は、二人の映画班の方へ声をかけた。
「いや、ちょっとまった。隊長が、まだ崖をのぼり切っていないから……」
 監督ケンは、そういって、崖のところへ出て、下をのぞきこんだ。
「おーい、隊長。ロープでも下ろしてやろうかね」
 ケンは、がむしゃらのようでいて、細心《さいしん》であり、親切であった。
 下では、伯爵が何かいったが、玉太郎には聞きとれなかった。
「ダビット。手をかせ」
 ケンは、腰につけていたロープをほどく
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