でも、そうもうろくしてもらってはこまるぜ。問題は、われわれの生命にかかっている。危機一髪《ききいっぱつ》というところで、子供がわあッと泣いたため、恐竜がわれわれのいることに気がついてとびかかって来たらどうするんだ。われわれの生命の安全のために、われわれは幼児の同行に反対する。さあ、団長。はっきり宣言したまえ」
「それはこまる」
「なにイ……」
「まあ、まちたまえ。団長、モレロ君。恐竜島へ上陸したとたんに、せっかくにここまではるばる仲よくやってきた隊員の間で争いがおこるというのはおもしろくない。よく話し合って、協調点をみつけてくださいよ」
「生命の問題は、ぜったいだ。協調なんかして死ぬのはいやだ」
「今さら、隊員の自由をしばるのはいやだ」
「どっちも、もっともです。しからば、こうしたらどうです。ツルガ博士がゆくときは、モレロ君はあとにのこる。次回はモレロ君がゆき、ツルガ博士はあとへ残る。そんならいいでしょう」
 マルタンの調停《ちょうてい》に、モレロはまだ不服でぐずぐずいっていたが、しかしついに説きなだめられ、モレロはやっと承諾した。そして第一回のときにはツルガ博士が出かけ、第二回のときにはモレロがゆき、二人はいっしょには行かないことに、だきょうがついた。
 しかしそのあとでも、モレロはこわい顔をして、がなりまわっていた。


   探検隊員出発


 その日の午後二時過ぎになって、シー・タイガ号は第一回の探検に出発した。もちろんこれは伯爵団長がひきいていた。そしてツルガ博士のネリはくわわっていたが、モレロはいなかった。
 二人の水夫も、第一回には参加しないでいいことになった。それから、中国詩人の張子馬も残ることとなった。
 つまり、留守番はモレロ、張、二人の水夫の四名であり、出発したのは玉太郎少年の外《ほか》に伯爵団長、マルタン、ツルガ博士と娘、ケンとダビットの映画撮影班の七人だった。
 玉太郎は、隊長とならんで、先頭に立って密林にはいった。
 やがて歩けなくなったので、玉太郎は先頭になり、そのあとに団長がついた。それからツルガ博士と娘。そのあとにマルタンが護衛のようにしたがった。二人の映画班はいつもおくれがちであったが、これはもちろんとちゅうでしばしば目的物をつかまえて、十六ミリ天然色映画をとるので、そうなるのであった。
 密林の中を行くとき、玉太郎は伯爵団長に、
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