とっては、たいへんな御馳走であり、そしてまた彼に新しい元気をつけたことはたしかであった。
玉太郎は、朝食をとりながら、探検団の人々にむかって、これまでの話をのこらずして聞かせた。話が、ラツール記者と愛犬ポチの行方《ゆくえ》が今なお分らないというところまですすむと、探検団の連中はざわめきだした。
「これはたいへんだ。恐竜とこの島に同居《どうきょ》するのでは、たいへんだ」
「やっぱり恐竜は人間をくうんだね。そこまでは考えなかった」
「人間をくうとは、まだはっきり断定できないだろう」
「いや、あの小さい総督が今いった話によると、ラツールとかいうフランス人がくわれ、ポチという犬が恐竜にくわれたそうじゃないか」
「目下《もっか》行方不明だというんだろう。くわれたかどうか、そこまではまだわかっていない」
「くわれたにきまっているよ。こんな小さな島で、行方不明もないじゃないか。それにわれわれは母船《ぼせん》を失った。あのとおり親船《おやぶね》のシー・タイガ号はまっぷたつにちょん切られて、もう船の役をしない。われわれはこれから恐竜島に缶詰めだ。そこで今日は一人、あすは次の一人という工合に、恐竜の食膳へのぼっていくのだ。はじめの話とはちがう。ああ、これはたいへんだ」
「なるほど。これはゆだんがならないぞ」
このざわめき話に、水夫のフランソアとラルサンの二人は、絞首台の前に立った死刑囚のように青くなった。
いがみあい
玉太郎ひとりのときと違い、ともかく十名の探検団員が島の生活にくわわったこととて、仕事はどんどんすすんだ。
この島の小さな社会の中心人物は、やはり実業家のマルタン氏だった。氏は、でっぷりふとった体をかるくうごかして、孤島《ことう》に半永久《はんえいきゅう》の安全な生活をつづけるために、色々と計画をたて、その指揮をして人々を動かした。
マルタンに比べると、団長の伯爵セキストンなんかは隠居《いんきょ》の殿様みたいであった。
マルタンの命令により、組員はかわるがわるボートに乗り、沖合の難破船へ漕《こ》ぎつけては、船に残っている食糧や布片《ぬのきれ》や器具などをボートにうつして持って帰った。
彼らは、不幸な乗組員には、ついに会うことがなかった。みんな波間に沈んでしまったらしい。もうすこしボートの出発がおそかったら、自分たちはもうこの世の者ではなかったんだ
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