のかね」
「そうなると、この汽船は珊瑚礁の上にのりあげて、船底を破るおそれがあるのです。ですから本船はこれ以上深入りしないことにして、用事のある方だけ夜明けをまって、ボートに乗って島へ上陸されたらいいでしょう」
「君は、いくらいってきかせてもわからないんだね」伯爵がいらいらしていることは、その声で分った。「恐竜島へは、明るいうちにはぜったい近よれないんだ。この前、わしたちはこりごりしている。わしたちが逃げだすときだった。救いに来てくれた船に乗りうつって、やれやれ安心と思ったとき、島の上に一ぴきの恐竜がいて、こやつの目がぴかりと光った」
「へへん」
「……と思うまもなく、その恐竜は、どぼんと海中にとびこみ、そしてわしたちの乗っている船をめがけて、追いかけてきた」
「恐竜は水泳ができると見えますな」
「さあ、わしは恐竜が泳ぐところを見たことがない」
「だって、海を泳いで、閣下《かっか》たちの乗っていられる船を追っかけて来たのでしょう」
「いや、そうではない。そのとき恐竜は、たしかに海の底を歩いていたのだ。しかし恐竜の首は、海面から百メートルぐらいも上に出ていた。船のマストよりも高いんだから、おどろいたね」
「ほんとうですか。わしは信じませんね」
「ほら話をいっているんじゃないよ。じっさいに恐竜を見たわしらでなくては、恐竜がどんなに大きいけだものであるか、どんなおそろしいやつか、とても想像がつかないよ」
「へーん。……で、それからどうなりましたか」
「それから……それからがたいへんだ。恐竜は、そこまでやってくると、大きな口をあいた。口の中はまっ赤だ。蛇のように長い舌をぺろぺろと出したかと思うと、いきなり船のマストにかみついた」
「ふーん。それはたいへんだ」
「かみついたと思うと、船がすうーッと上にもちあがった。恐竜の力はおそろしい。じっさいに船をもちあげたんだからね」
「ほう」
「船からは、恐竜にむかってさかんに発砲した。しかし恐竜は平気なものさ。船長はついに大砲を持ちだした。それをどかんとやると、恐竜の首をかすった。恐竜は、はじめておどろいて、へんないやらしい声で泣いた。とたんに、くわえていたマストをはなしたもんだから、こっちの船は五十メートルばかり下の海面へぼちゃんと落ちて、ぐらぐらと来た。あのときばかりは船長以下、舵《かじ》もコンパスも放《ほう》りっぱなしにして、み
前へ
次へ
全106ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング